短いのはお好き? DiaryINDEX|past|will
今度来た新しい上司がさ、いやな女でさ。 いろいろ難くせつけるから、言ってやったのよ。 「じゃ、あたしたちのやってる仕事出来るんですか」って。 そしたら、いけしゃあしゃあとさ 「いいえ。そんなの出来ません」だって。 「上のひとにやらなくてもいいからっていわれてますから」 じゃ、いちいちやいのやいの言うなっていうのよね、まったく。 一日中、ただ座って私たちがなまけないかどうか見張ってるのよ。 見張るってことが、管理だと思ってるただの馬鹿女。 まったくムカツクのよね、あの女。 少しばかり綺麗だと思ってお高くとまっちゃてさ。 ああいう手合いこそ、Hが好きで好きでたまらないって口なのよ。 普段はさ、虫も殺さないてな顔しちゃってさ 絶対そうよ。 朝からさ、やたらご機嫌斜めなときってあるじゃない。 きのうもそうだったけれどさ ああいうときって、きっと男がしてくれなかったのよ。 そんなんでヒステリックに怒り散らされてもねぇ まったくこっちはいい迷惑だわ どうにかして、あの鼻っ柱をへし折ってやれないものかしら。 ずっと黙って麻理の話を聞いていた、映子は、煙草にまた火を点けていった。 「ない事もないわよ」 「え、なによなによ」 「あたしの友達に、というか元彼なんだけれどさ、ナンパ師なんだこれが。あいつに頼んであの女輪姦させちゃおうか」 「ええ! だって、そんなことしたら犯罪じゃん」 「ちゃうちゃう。れっきとした自由恋愛よ。力ずくでやられるわけじゃないもの。強姦じゃなくって和姦だからね」 「そんなにうまくいくの?」 「それは、だいじょうぶ。あいつにかかったらどんな女もイチコロなのよ」 「そんなにカッコいいわけ、ヨンさまみたく?」 「あのね、そういうんじゃないんだなぁ。もうさ、自分から抱いてって言いたくなっちゃうのよ」 「男の色気?」 「そうかもね。そういうのが得意分野なやつもいるのよ、世の中広いんだから」 「そう。面白いことになりそうね。なんかわくわくしちゃう」 「でもさ、あの女がさ、ヒーヒーよがってんの間近でみれたらなぁ、最高なんだけど…」 「そうね、それがだめなら、ビデオに撮っておくって手もあるけど、なんとか見れるように頼んでみるわ」 それから一ヵ月後ほど経たある日。 「麻理、セッティング完了。今夜、決行よ」 遅刻寸前で駆け込んで来た麻理に、映子がウインクしながら、そう告げた。 どういう風の吹き回しか、上機嫌な女上司を見て同僚たちは驚いていたが、そのわけを知っているふたりは頷きあってほくそえんだ。 定時に会社が退けると、映子は麻理を連れて地下鉄に乗り込んだ。 「で、どこに行くの?」と映子。 「以前ね、あたし達がよく利用してたラブホがあるんだけれど、そこって彼の友達が経営してるとこでさ、隠し部屋みたいなのがあるのよ。全面マジックミラーでね、ぜ〜んぶ丸見えなの。よくさ、ラブホにはマジックミラーでお風呂が丸見えになるって仕掛けあんじゃない、あれといっしょ。お客さんに見つかったら捕まるけどさ」 「やだ、じゃ映子たちは見られてんの知っててやってたわけ?」 「んな、アホな。それが設置してあるのはね、一部屋だけなの」 「なるほど。じゃあ、これからその部屋に行くってことね」 「そういうこと」 そのラブホは、渋谷の大きなライブハウスの裏手にあった。 映子は、受付のおばちゃんに挨拶して、鍵を貰い映子と共に部屋に入った。 なかを覗いたとたん麻理は、素っ頓狂な声をあげる。 「すご〜い」 そこはまるで遊園地みたいに楽しい部屋で、プールみたいに大きなジャグジーがあって、それを見下ろしながら、橋を、そう部屋のなかに橋がかかっていて、それを渡ってベッドに行くのだった。ジャクジーには、橋から階段で降りてゆくのではなくジグザグに走る人独りがやっと通れるほどの幅のキャットウォークを使うか、消防所にあるようなポールに掴まって一気に滑り落ちるかするようになっていた。 ベッドは、ドアの位置からは、見上げるほどの高い位置にあって、天蓋付きで全体に白いレースがかかっていて、まるで王宮みたいな優雅さだった。 あそこで、あの女が犯されるのだ。麻理はあの女には勿体ないとさえ思った。 あんな女は、場末の木賃宿みたいなところで充分で、私こそあんなところで愛されたいと思うのだった。 映子に促され、橋を渡ってベッドを覗いてみた。レースをかいくぐって中に入ると、それは、ウォーターベッドのようで、その弾力に満ちた柔らかななんとも言わ れない有機的な感触に、麻理はうっとりしてしまうのだった。 マジでヤバイ。ここで愛されたい、などと映子は妄想を膨らませる。 すると、映子がしきりに時間を気にし始めた。 「おかしいはね。もう来てもいい筈なのに…」 麻理は、Hな妄想から我に帰って映子に訊ねる。 「何時くらいにくるのかしらね」 すると、映子のケータイに電話がかかってきた。 「うんうん。え! そうなの? わかった」 映子は、困ったような顔をしてケータイを切った。 「ごめん、急に用事ができちゃった」 「ええ? そうなの」 「すぐ戻ってくるからさ、ちょっと待ってて」 「うんいいけど。どうしてたらいいの? あたし」 「あ、ここをね、ほら押すと中に入れるからさ」 そういって、ベッドの頭の方に全面張りとなっているミラーを押した。 それは、ミラーの左端だけを強く押すと少しだけ後ろに後退するのだということだった。 すると、大人ひとりがやっと通れるくらいの隙間があいた。 「また、中から押せば戻るからさ」 「わかった」 映子が出ていってしまったら、麻理はなんか気が抜けてしまった。 いったいひとりで何してんだろうと思った。 ベッドに横になったら、昨夜の夜更かしが祟ったのか急に身体の力が抜けて眠くなってきた。 それから、1時間たっても、2時間たっても、誰も現われなかった。
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