2002年05月13日(月) |
ある日それが恋だと悟って |
昔。 そう、これは昔の話だ。 何年も前の話。
僕にもあなたのように幼い頃や若い頃があったのだよ、と後輩さんたちには時々 教えたくなるけれど。んー。なんだか僕は年齢不相応に落ち着いて見えるらしい。 困った話さ。ははん。
僕にとっての昔、なんて、全然大したものじゃないんだなぁ、と、 今日行った先斗町のお店で思う。 何となく話し相手になってもらったカウンタの隣りの席のおじいさんは、 もう80になっていて、学徒出陣で友人が大方死んでしまったそうだ。 今は、能面ではない、古いお面を集めていて、趣味が高じてそれについて 講演まで頼まれるようになっちゃったとか。
先斗町とか、あのへんのせせこましい店に1人で行ったりしてしまうのは そういうちょっとした出会いがあって、それでいて気楽に別れられるからだ。
そのおじいさんは、若い頃は詩を書いていたりして、昭和10年代、 だんだん少なくなりつつあったクラシックの流れる喫茶店に通っていたそうな。 詩を書いて、音楽を聴いて、 そんな喫茶店の壁に、一枚の小さなお面が飾ってあって、 おじいさんはそのお面がとても気に入っていて、それを見るためにも その店に何度も通っていたとか。
僕もいつか誰かにそんな話をする日が来るだろうか。
僕が初めに恋をしたのは、 夜も眠れぬ恋をしたのは、 もう何年も前のことでした。
心が声を上げて、息ができなくなりそうだった。 恋というものが、あんなに鮮やかで残酷なものだなんて僕は寸毫も知らなかったし、 たとえ知っていたとしても、 心はあんなにも自由でとりとめもなく、それでいて相手にだけ縛られた。 この身体が天国に在って同時に地獄に在るような、 そんな夢のようにギリギリのところにある日々だった。
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