スタンドから眺める木漏れ日
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2021年03月07日(日) スタレビライブの前と後(前編)

我が街浜松でスタレビのライブが開催される日は、
基本的に仕事が休みの日、或いは前もって休みを取っておくのが通例であった。
しかし、今回はあえて休みを取らずに「職場から直行」することを選んだ。
何せ日曜日だし、接客業だし、店長の貴重なお休みを奪うことはできない。
何より、現在の職場はライブ会場であるアクトシティにほど近い。
徒歩でも20分あれば楽勝で到着できる。

17時開演のライブに行くには16時ごろに仕事を切り上げ、
遅くとも16時半までには職場を出れば超余裕!
という予定だったのだが、予定はあくまで予定であって確定ではないのだ。

この日、1人のお客様が来店された。
聞けば、今までスチールペン先のお手頃万年筆を使ってきたのだが
そろそろ「金ペンデビュー」したいとのこと。
それじゃ、実際に書き心地を体感していただきましょ〜というわけで、
いつものように国内3代メーカー(セーラー・プラチナ・パイロット)の
1万円台の万年筆を存分に試筆していただく。

市内唯一の万年筆専門店である当店最大の売りは、
試筆スペースにあるといっても過言ではない。
他の文具店にも試筆用のペンを設置してある場合はあるが
大抵は商品を陳列するガラスケースの上に試筆ディスプレイが乗っけてあるだけ。
椅子に腰掛けてゆっくり書くことを楽しむことなどできないのだ。
うちは違う。折りたたみ式だが椅子が用意され、ライティングデスクも完備している。
万年筆を実際に手に取って、書き心地をお楽しみいただくことで
お客様一人一人の手に合った満足の1本を見つけていただきたいー
試筆していただくことは、この店の接客において最優先事項なのである。

だがしかし、店内でお客様ご自身が満足のいく1本と出会うまでの道のりは長い。
コロナ禍で「店内のご滞在は30分を目安に」とアナウンスしたこともあったが、
字幅やデザイン、価格など様々な角度から万年筆を吟味するには
30分という時間はあまりにも短いとさえ感じてしまう。

このお客様も例外ではなく、字幅やメーカーを変えながら、
時には1度試したペンをまた手に取って他と比べて見たりする。
「あぁ、是非是非このお店で運命の1本に出会っていただきたい!!」
と、スタッフである私も心からそう願って接客をさせていただく。

「決めた!これにします!!」
と、お客様にお選びいただいたのは当店のオリジナル万年筆。
そこに、当店のオリジナルインクをコンバーターで吸い上げて
「金ペンデビュー万年筆」で試筆していただいた時のお客様の楽しそうな顔。
この瞬間に立ち会いたくて、この店のスタッフを続けているのだ。

大変幸せな気持ちの中でお客様をお見送りし、ふと時計を見る。

ヤバイ。

今から、接客以前に取り組んでいた作業を諸々片付けて
ダッシュで会場に向かってギリギリ間に合うかどうか…っていうか
どちらかというともう開演時間には間に合わないと覚悟したほうがいい。
そういう時間になっていた。

中途半端になってしまった作業と片付けを他のスタッフに詫びながら、
私はそのままコートを羽織って店を後にした。
身支度なんて一切なし。とにかく一刻も早く会場に向かわなければ。
そもそもマスクしていて息苦しいのに、ダッシュしていりゃなおのこと。
ほぼほぼ酸欠状態のまま会場に到着し、何とか受付に向かうと
「只今から開演で〜す。場内の扉を閉めま〜す」の声。
未だ辛うじて開いていた扉をくぐり、前の席まで階段を降りる私は
「24時間テレビ」のマラソンランナーが武道館のゴールテープを切る直前に
スタンドの階段をフラフラになりながら降りていく姿を思い出していた。

這々の体で指定の席へたどり着いた私に、1つ席を開けて座っていたまこさんが
「おつかれさまぁ〜、大変だったでしょう?」と労いの言葉をくださった。
いつもなら「そうなんですよぉ〜、実はね…」と話が始まるところだが
開演直前に加えてコロナウイルス感染防止のためにもおしゃべりはいただけない。
軽い挨拶程度の会話をして「その時」を待つ。

そして、ギリギリの状態で何とか「出航」に間に合った私は
ライブ序盤こそ滴り落ちる汗が入った目の痛みと、
なかなか整ってくれない呼吸と思考回路との戦いであったが
最後はこの航海を後悔なく終えることができたのである。
それはまた、別のお話で。


Shiratama Akkey |MAILHomePage

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