自宅で点滴

 退院6日後の9月29日に血液検査と尿検査を受けたのだが、入院前より腎臓の数値が上がっていた。薬もごはんもがんばったけど、それだけでは無理だったようだ。また入院を勧められたが、にょらのあの状態を考えると(それにわたしの寂しさも)、できるだけ入院は避けたいと思った。そのほかの選択肢としては、通院での皮下点滴、自宅での点滴、そして透析。腎臓がよくなることはないので、これからはできる限り維持していくという努力が必要なのだ。皮下点滴は簡単だが効果があがりにくい。自宅での点滴は時間的にかなり拘束される。透析はかなりの効果を期待できるが、まず体内に透析用の管を埋め込む手術をしなければならない。体力が衰えているところへの麻酔は危険を伴うので、これは最後の最後の手段にしたいと思い、わたしは自宅での点滴を選択した。

 まず先生の手で、にょらの腕の静脈に留置針というものを刺す。これは刺しっぱなしにしておいて、わたしがそこに点滴のチューブを接続することになる。点滴の手順や注意事項の説明を受け、留置針の中で血液が凝固するのを防ぐ薬を注射器で注入する練習をする。そして2種類の輸液とチューブ、薬の入った注射器、消毒液をしみこませた脱脂綿、エリザベスカラーなどを渡され、ついでにケージを借りた。

 家に帰るとさっそく点滴の準備。にょらにエリザベスカラーをつけ、輸液の袋にS字フックをつけて適当なところにひっかけ、留置針についている管の先端のゴム部分を消毒して凝固防止剤を注入し、輸液のチューブに空気が入っていないのを確認して先端の針を留置針のゴムに刺す。そしてテープで固定してから腕全体を包帯で巻く。チューブの途中に、輸液の落ちる速度を調節する器具がついていて、時計を見ながらこれを締めたりゆるめたりして調節。1分間に7〜8滴に合わせるのだが、これがなかなかむずかしい。

 にょらに動かれると困るので、ケージにペットシーツを敷いてにょらを中に入れる。するとにょらは病気とは思えない元気さで「出せー!」と鳴き叫び、わたしがそばについていても落ち着くことはなかった。トイレに行きたいのかもと思い、輸液の袋を高く掲げ持ってにょらをケージから出してやった。するとトイレを通りすぎてパソ部屋に行き、机の横の台(いつもわたしがパソコンに向かっているとそこで寝ている)にのぼってすわりこんだ。カーテンレールに輸液をひっかけ、様子を見ていると、しばらくしてにょらは台をおりて、今度は部屋の隅にあるガーフィールドの形のベッドにエリザベスカラーをひっかけながら苦労して入り、ようやく落ち着いた。輸液は洋服ダンスの扉にひっかける。

 にょらがいたい場所はそのときによって違うが、いったん落ち着いてしまえばしばらく同じ場所にいるので、ケージに入れる必要はないことに気づいた。入院はストレスになってかわいそうだから自宅での点滴を選んだのに、ケージに閉じこめていたのでは入院とたいして変わらないではないか。ただでさえ点滴がストレスになるのだから、それ以外の部分ではできるだけ好きなようにさせてやりたい。わたしが見ていればすむことだ。

 点滴は1日10時間ほどかかる。そのあいだ、ずっとにょらのそばにいて輸液の落ちる速度をたびたびチェックし、にょらが寝返りを打てばチューブを踏んでいないか確認し、歩けば輸液を持ってつきそい、トイレにしばらく行ってないなと思ったら連れていく。点滴中はおしっこの量がふえるので、連れていけばたいていおしっこをするのだ。薬は1日3回、そしてごはんも水ももう自分では口にしないので、少しずつ何度も口に入れてやる。

 きょうで点滴4日目。そのあいだに留置針の中がつまって病院に駆け込んだり、凝固防止剤がなくなってもらいにいったりというハプニングもあったけど、なんとかうまくいったほうだと思う。にょらも慣れてきたようで、エリザベスカラーをつけなくても、腕に巻いた包帯を食いちぎろうとすることはなくなった。

 予定をいくつかキャンセルしなければならなかったが、ずっとにょらのそばにいられる幸せは大きい。このあどけない寝顔をいつまでも見ていられたら、と思う。



2003年10月02日(木)
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