ジョージ北峰の日記
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2015年05月12日(火) |
悪性新生物---この化け物の正体を暴く |
これまでの実験では、「低悪性度」の癌と「高悪性度」の癌では、後者は 組織圧に抗して増殖する能力が高いことを示した。しかしこれだけでは実験は半分しか終わっていない。
ここで少し話題を変えてみよう。
数学の証明論で習ったと思うが、命題「AならばBである」が真であるだけでは「A=B」とは言えない。 「A=B」を真理命題とするにはその逆「BならばAである」も真であることを証明しなければならない。例えば「富士山は高い山である」の逆「高い山は富士山である」は必ずしも「真なる命題」とは言えない。「富士山=高い山」は真理命題ではない(富士山より高い山は世界にいくらでもあるからだ)。 しかし「富士山は日本一高い山である」は如何だろう。その逆「日本一高い山は富士山である」は成り立つ。 つまり「富士山=日本一高い山」は真理命題なのだ。
ある命題「AならばBである」が「真」である時、その逆が「真」であって初めて 「A=B」は「真理命題」となる(この命題は、必要十分条件を満たしてる)。
話を元に戻そう。 これまで癌の性質について「AならばB」が成立したとても、その逆「BならばA」は必ずしも「成立」することがなかった。いや、「必ずしも」と言うよりむしろ「全くなかった」と言う方が正しいかもしれない。
例えば、今回実験に使ったハツカネズミの悪性度がI期からIV期の癌細胞についても、染色体数はおおむね60~80本である(正常ハツカネズミの染色体数は40本)。つまりI期からIV期の癌細胞の染色体数は正常細胞より1.5〜2倍多かった。しかし染色体数が多ければ悪性だとも、また悪性度が高いとも いう訳ではない。
また細胞増殖速度についても、悪性を全く示さないm細胞は高悪性度のF細胞種より増殖が速い。
つまり増殖速度が速いからと言って悪性度が高い訳でもない。 では、癌細胞の「力持ち」の程度と癌細胞の示す浸潤・増殖、転移能力との間に必要十分条件があるだろうか?
今回実験に使った細胞系のうち、m15ag、magはいずれもm細胞(正常細胞と同じでいかなる条件でも腫瘍形成能を示さない)から分離された細胞で、m15agは0.15%、magは0.3%の軟寒天内で継代培養されている。
つまり、これらの細胞は通常の試験管内で培養されているm細胞と全く異なる環境条件、寒天培地で継代維持されたのである。そしてm15ag細胞、mag細胞はm細胞と違って、腫瘍形成能を示すようになった。 この実験で興味深いのは「0.3%の寒天培地で維持されている」mag細胞は「0.15%の寒天培地で維持されている」m15ag細胞に比べて悪性度が高いこと、つまり「強い外部圧力」に抗して増殖する細胞は「低い外部圧力」に抗して増殖する細胞より悪性度が高いことだ。
さらに「高悪性度」のMC及びF細胞を1%の寒天内で増殖させ、寒天内でのみ増殖出来る細胞だけを収集し(MCag細胞及びFag細胞と呼ぶ)成体に戻し移植すると、通常の試験管内で継代培養されているMC、F細胞種に比較して腫瘍形成能および浸潤・転移能に著しい増強がみられた。(悪性度を不等号で表すと、MCag>MC, Fag>Fであった)。
以上のように、寒天内で培養されている細胞では寒天濃度が0.15%<0.3%<1%と高くなるにつれて、それらの悪性度が高くなることが示された。
これらの一連の実験から、癌細胞の示す「外部組織を破壊する力」は癌細胞の示す「腫瘍形成能(増殖・浸潤)と転移能」との間に1対1の関係を示すことが明らかになった。
生体で癌細胞の示す「悪性」と試験管内で示す性質とが互いに必要・十分条件が満たすことは、癌治療を考える上で極めて重要な意味を持つ。
つまり、癌の示す「力」を削ぐことが出来れば、「癌細胞」自身を殺さなくても癌の生体内での増殖を防ぐことが出来るからだ。
例えば「断食」や「食事療法」が上手くかみ合えば癌の増殖を防ぐことが可能になることもありうることを示唆しているからだ。
動物の組織は寒天培地と同じく弾性体で「癌細胞が生体内で増殖できる能力」は、弾性体が示す「圧力」に抗して増殖する「力」と密接に関係がある。
つまり私達が水中に潜る時、深さに応じて強い水圧を感じるが、同じように癌細胞も寒天培地で増殖する時、寒天培地の濃度に応じた外圧を受けることになる。 が、実際に0.15%、0.3%や1%の寒天培地が細胞に及ぼす「力」はどの程度の値になるのだろうか。
寒天培地が示す「圧力」の強さは、寒天培地の濃度に応じた弾性率(ダイン/cm²)で表すことが出来る。
つまり弾性率は圧力の単位で、水中に潜った時に私達が体に受ける水圧のように、この値が大きいほど細胞はそれに比例して強い外圧を受けることになる。
0.15 %の寒天の弾性率は0.0089X10⁴、0.3 %では0.1x10⁴、1 %では6.3x10⁴である。 寒天濃度は0.15 %と0.3 %では2倍の差があるが、弾性率は約11倍、一方1 %の寒天培地の濃度は0.15 %の寒天培地の6.7倍であるが、弾性率は707.88倍で、1%の寒天培地では細胞は凡そ700倍を超える外圧を受けながら増殖することになる。
つまり「中悪性度mag細胞」、「高悪性度F及びMC細胞」の癌細胞は「低悪性度m15ag細胞」」に比べて一回分裂するのに其々11倍および700倍以上の外圧に抗して分裂する能力(エネルギー)を有する。
生体に戻って考えると(いずれの細胞も同じ環境で増殖するので)、「高悪性度」の癌細胞の増殖能力は「中悪性度」及び「高悪性度」とは比較にならない程大きいことが分かるだろう。
これまでの我々の細胞は地球上の重力に対する受容体を有し地球に従属してきたかも知れない。
癌細胞はそのような受容体を投げ捨てた新しい「新生物]で、
私達にとっては「悪性」かもしれないが、もしかしたら「新しい地球環境(良いか悪いかは判断を保留するが)」に
適応する「新しい生物の誕生」に向けての胎動かもしれない。
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