ジョージ北峰の日記
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2015年03月07日(土) |
悪性新生物ーこの化け物の正体を暴く |
さまざまな動物の姿、形を決定する上で、細胞へ重力が関与する “組織圧”が深く関わっていると考え、その為に細胞側に組織圧を感受するセンサーか又は受容体が存在すると仮定してみよう(現段階では、仮にこのセンサーを“圧受容体”と呼ぶことにする)。 とすれば癌の形態が正常のそれと全く違うことを考慮すれば、癌の“圧受容体”と正常細胞のそれとの間には差があるはずである。
もし差があれば、癌細胞と正常細胞の“組織圧”に対する感受性に違いがあることが明らかになるばかりでなく、動物細胞には“圧受容体が存在する”という仮説の真偽を明らかにする有力な証拠ともなるだろう。
この仮説の真偽を確かめるために、読者にはやや煩わしいかもしれないが、少し実験的な話しを進めてみよう(これは生物実験とはどんな風に進められているのかを知る上で、興味を持つ読者もいるかもしれないので)。
その為に、前回お話しした悪性度(I期からIV期)の異なる癌細胞(モデル)を準備する事から始める。
当然のことであるがこれらの細胞モデルを選ぶ際に、科学実験に使う以上何度も試験管内で実験が繰り返されるので、絶えず一定の、安定な結果が得られることが前提である。
すなわち(悪性度の研究は比較研究が主体であるので)其々の細胞モデルの腫瘍形成能力や転移能力は安定(例えば腫瘍を作り、転移する能力を示すMC細胞は実験時に必ず、100%腫瘍を作り転移もする、一方腫瘍を作らないT-C3H細胞は100%腫瘍を作らない上、転移もしない)で、其々の細胞株はその能力差(悪性度)に確実な差がなければならない。
実験に使った細胞種(専門家は細胞株と呼んでいる)をテーブルに示した(テーブルは作成できないので、分かりにくいかもしれないがお許し願いたい)。それぞれのモデル細胞は、いずれも二十日鼠由来の9種類の細胞種(株)である。 このモデル実験に使われた細胞種は試験管で、研究者によって注意深く培養され、定期的に其々の細胞の能力(例えば試験管内での増殖、染色体、さらに元の成体に戻して戻し移植した場合、その癌としての能力、例えば腫瘍形成や転移する能力は)チェックされている
これらの細胞種(株)の性質は、実験室で10数年に亘って維持され調べられているが、其々の細胞種(株)の性質は悪性度も含めて極めて安定に保持されている。その成果は学会や研究雑誌に報告されている(つまりこれらの細胞種を準備するだけでも、10数年の研究がなされていることを付け加えておこう)。
テーブルの読み方は、例えばm15agとかMCと記述された記号は細胞種(株)の名称(分かりやすく言えば、人の名前に相当する)で、例えば(1) m15agの場合、横列に沿って見ていくと腫瘍を作る能力(C)を有するが、転移する能力(D) がない細胞種(株)で、悪性度はII期に相当する。
また(2) MCの場合、腫瘍を作るばかりでなく転移する能力を備えた細胞種(株)で、悪性度はIV期(A)に相当する、と読む。
(3) 腫瘍形成能力(+/-)とは,この細胞株が免疫力の低い成体(免疫抑制剤で処理された)、か又は低免疫能力しか有しない新生仔に“戻し移植”した場合腫瘍形成が見られるが、正常の成熟二十日鼠に“戻し移植”した場合腫瘍形成が見られないことを意味する。(これは動物の場合(おそらく人間も同じと考えられるが)癌の発育は、ある程度免疫力で阻止されることを意味している。)
(4) このテーブルで増殖速度(E)(hrs)とは試験管内で、細胞数が2倍になる時間(倍加時間)を表し、研究者は細胞増殖能力の指標としている。例えばT-C3Hの倍加時間は正常細胞より遅く86時間であるが、mの倍加時間は21時間である。これはm細胞種が、T-C3H細胞種に比べて約2倍の速さで細胞数が増加することを意味する。おおむね、長期に亘って維持されている細胞種の倍加時間は20時間前後である。
(5) 仕事量(F)(dyne-cmX10¯¹)については、この研究の核心部分なので、後で詳しく説明するが、簡単には、ある一定の圧力(組織圧)下で細胞がどれほどの、(組織圧に抗して)仕事が出来るかを表している。
テーブルの作成が困難なので、正確を期すために悪性度[A], 細胞株[B], 腫瘍形成能[C], 転移能[D], 増殖速度[E],仕事能力[F]として各細胞腫の特性をまとめてみると下記のようになる。
[A]正常, [B] ME, [C](-), [D](-), [E] 72hrs, [F] 0.00
[A] I期a, [B] T-C3H, [C] (-), [D] (-), [E] 86hrs, [F] 0.00
[A] I期b, [B] m,[C] (-), [D](-), [E] 21hrs, [F] 0.24
[A]II期, [B]m15ag, [C] (+/-), [D] (-), [E] 23hrs [F] 0.13
[A]II期, [B]MR, [C] (+/-), [D] (-), [E] 19hrs, [F] 0.03
[A]II期, [B] L, [C] (+/-), [D] (-),[E] 22hrs, [F] 0.02 [A]III期, [B]magc1, [C] (+), [D] (-), [E] 25hrs,[F] 6.69
[A] IV期, [B] F, [C] (+), [D] (+), [E] 36hrs, [F] 416.9
[A] IV期, [B] MC, [C] (+), [D] (+) [E] 22hrs, [F] 334.1
このテーブルは判読がとても煩わしいので、文章で少し補足すると、まず使用された細胞種は、正常〜悪性度-4の5段階に分類され(1) 正常細胞は(ME細胞種)、(2) 悪性度-1は(T-C3H、mの2細胞種)、(3) 悪性度-2は(m15ag, MR, Lの3細胞種) (4) 悪性度-3は( magc1細胞種) (5) 悪性度-4は(F、MCの2細胞種)である。且つ、ここで注目してほしいのは、項目[F]に記載された各細胞種の組織圧に抗して分裂する際に発生した仕事量である。悪性度の高いmagc1、F、MCは組織圧に抗して分裂する際に、他の細胞種に比べて仕事能力が著しく高いことが分かる。
これらの細胞株は混ざり合うことないよう、(研究者によって)細心の 注意を払って(試験管)内で代々維持されている。
繰り返すが、ここに挙げた細胞種モデルの性質は10年以上に亘って培養されているがその性質は、先に述べたとおり極めて安定している。
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