ジョージ北峰の日記
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2014年02月14日(金) 青いダイヤ

 もう少しファシズム国家と自由民主主義国家と何が違うのか考えてみたい。 
  最近、某市のH市長あるいは公共放送のM会長の発言が世界中を駆け巡った。「従軍慰安婦は戦時には世界中にあった」というあの発言だ。

  戦後「従軍慰安婦」問題がどのように処理されたのかについて私自身は事実関係をよく知らないので、そのことに関して断定的な発言は避けたいと思う。(殊に日本側はこの問題は戦後解決済みと言っているので)

  しかし「現代社会でも買売春は何処の世界にも見られるじゃないか」と「従軍慰安婦」を並列して発言されるとなると話は別だ。

  この発言には論理的飛躍があるのだ。
  この点を少し考察してみたいと思う。平凡社の哲学事典によるとファシズム国家の定義は、「全体(国家または民族)を究極の実在と見なし全体と個人の関係においては全体の個人に対する優位を主張するもので、反自由主義的、反民主主義的、権威主義的、反社会主義的である。----また個人的平等に基づく議会性は否定され公然とした独裁が打ち立てられ、指導者原理による絶対服従が強いられ思想的、イデオロギー的統一が強制される」とある。
  
  この定義の最も重要な部分は「議会性は否定され公然とした独裁が打ち立てられ、指導者原理による絶対服従が強いられる」部分である。

  当時の日本国家体制はまさに定義通りのファシズム国家だったのだ。少なくともアメリカを中心とする西欧諸国はそうみていた。

  殊に女性には選挙権すら与えられていなかった。当時日本の国家には女性の人権が存在していなかったのだ。
  つまり現在、自由民主主義国家で見られる「買売春」と当時の「従軍慰安婦」の決定的な違いは当時の日本の政治体制に根ざしていたのだ。

   彼等(H市長とM会長)の無神経さは、その違いを意識的かあるいは無意識的にか無視して(あるいは避けて)発言したことだ。
二人は、自分達の発言の何処に問題があるのか全く理解していないようにさえ見える。

 自由民主主義国家の「買売春」とファシズム国家の「慰安婦」は全く次元の異なる事象だと知っての発言なのだろうか?それとも区別がついていないのだろうか?
  もし後者だとしたら欧米の知識人からは呆れられるだろう。
もし前者だとするなら、現代社会のリーダーとしての資格を問われることになるだろう。

  この発言が騒がれる問題の本質は、繰り返すが日本ファシズム国家では「女性の人権が完全に無視されていた」ことに由来しているのだ。

  当時の日本がファシズム国家だった以上、「慰安婦」が個人の意思を無視して権力によって強制売春させられた可能性が高い(それが慰安婦ではなく従軍慰安婦という言葉に含まれている)と判断されても仕方がないことなのだ。

  もし二人の発言が「買売春」だけに焦点をあてて、当時日本が「ファシズム国家」だったことを棚にあげ(あるいは無視して)「何処の国でも同じようなことがあった」という発言を繰り返すなら、本質を外れた議論として馬鹿にされるだろう。

  勿論自由民主主義国家でもレイプ問題は存在する。戦時中ならなおさらのことだ。しかしそれは「個人レベルの罪」で次元が異なる問題なのだ。現代社会でも「買売春」は法的に認められる国もある。しかしそれは強制ではなく、あくまで個人の選択にゆだねられているのだ。
  ファシスト国家と自由民主主義国家の違いはこの「売買春」に「国家の関与」があったかどうかにあるのだ。
日本の政治家は「そのようなことに国家がかかわった事実はない」と答えている。
  それは手続き上事実かもしれないが、しかしそうだった(政治がかかわらなかった)としても、残念ながら当時日本はファシスト国家だった弱みがある。
  当時の日本の軍隊は「上官の命令は国家の命令だった」のだ。国家が自由民主主義国家であるなら、「罪」は、命令を下した上官の責任にあるのだろうが、ファシズム国家の場合は政治の構造として「上官の命令は軍のトップの命令」であり、「日本国家の命令だった-」のだ。  

  これが論理的かつ常識的結論だろう。
  だから、日本政府の発言は言い逃れで正当性はないと判断される。

  「個人の人権より国家の利益が優先される」ことがファシズム国家の最もネガティブな側面として、自由民主主義国家で否定されてきたのだ。

  この考え方は(西欧合理主義を含めて)、現代でも日本人には(私も含めて)十分身についていないように思える。

   繰り返すがH市長もM会長も、日本が当時ファシスト国家だったことを無視しているような発言をした。あるいは「日本がファシズム国家だった」ことをよく理解していないような発言をした。
   国際社会は其処を問題にしているのだ。

   自由民主主義国家を標榜している日本の首相が、この点に何のコメントも発しないことにアメリカを中心とする自由民主主義国家の首脳は「?」を感じているだろう。


ジョージ北峰 |MAIL