与太郎文庫
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2008年12月08日(月)  最後の夜 〜 さらば、友よ 〜

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20081208
 
 承前。多羅夫くんは数年ぶり、多羅男くんと数ヶ月ぶりに酒を呑んだ。
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20081207
 蓼食わぬ虫 〜 ありやあらでものがたり 〜
 
 1
 
 約束どおり現われた多羅夫くんは、手ぶら(徒歩)だった。
 与太郎の車で、琵琶湖畔のホテル紅葉館に直行し、ナイトクラブ風の
サロンで無駄話をする。ホステスは、うっとりと多羅夫くんを見ていた。
 
 祇園にもどって、行きつけのクラブに入ると、彼の顔は割れていた。
 つまり、その程度の店で顔が利くのは、かなりの遊び人だったのだ。
 しかし、それはそれで、どこでどのように遊ぶかは聞かない。
 
 看板(閉店)まで、しこたま騒いで、女どもを連れて出る。
 そこで彼は云った。「ほなら、ぼくはこのへんで」
「どこぞに車を置いてんのか?」「いや、まぁ、おやすみ」
 
 与太郎は女たちを自家用車に乗せて、深夜営業のレストランに向う。
 電車通りの信号で停車すると、彼が向かい側の歩道を歩いている。
 そこで女たちが、かいつまんで詮索するのを聞いた。
 
「ひとりで、どこ行くんやろ?」「そら、彼女の店やろさ」
「女(売春婦)でも買うのかな?」「いやらしな、男は」
 聞こえないところで、女たちはこういう風に男を評しているらしい。
 
 与太郎も、いささか意外だったが、武士は相身互いである。
 女どもの勘繰りをたしなめるように、アクセルを吹かして去った。
 深夜に、男の一人歩きは、よからぬ空想を呼ぶらしい。
 
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 2
 
 別の夜、別の店へ、多羅男くんは、はじめ一人でやってきたらしい。
 カウンターに座っているところへ、与太郎が入って行ったのだ。
 そこで店の者は、てっきり二人が待合せたと思いこんだのである。
 
「よう」「やぁ」と云いながら、隣の止まり木に腰をおろす。
 数ヶ月ぶりの再会で、話題には事欠かないが、これという用件もない。
 いつものように、河岸を変えることにして、二人は立ちあがった。
 
 二軒目も三軒目も、どことなく弾まないまま、タクシーを拾って帰る。
 さきに降りる彼が「今夜の君は、まるで女房の回し者だ」と云った。
「なんだって?」と聞きかえすと、さらにブツブツ云っている。
 
 つまり彼は、女房が不在の夜に、ふだんから狙っていたホステスを、
口説き落とす目的で、最初の店に現われたのだ。
 そこへ運わるく悪友が現われ、他の店へ引きずりだされたらしい。
 
 彼が、いかにも遊びなれていないことが、あきらかである。
 まず、ぐうぜん悪友が同席する可能性も予測しなかったことだ。
 さらに、ねらった女の都合を、まったく調査していない。
 
── 「稲=否にはあらず(嫌ではないが)この月ばかり」
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20031219
 茂吉と茂の弟子 〜 稲舟の月 〜
 
 女を落とすには、奇襲と布告の使い分けが重要だ。
 概して、素人は奇襲でもよいが、玄人には宣戦布告が原則である。
 とまぁ、わけしりぬべく書きしるしておく。
 
http://d.hatena.ne.jp/aedlib/19690106
 三十四人に出会った夜
 
── プロップの煙草に、バランは無言で火をつけてやった。
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD13984/story.html
── 《さらば友よ Adieu L'ami 196810‥ France》
 
(20081208)
 


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