与太郎文庫
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1982年11月01日(月)  盤外長考

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19821101
 
 盤外長考                   阿波 之男
 
 TV対談《徹子の部屋》に登場の、米長邦雄棋王いわく「強くなるほ
ど夢の中で盤面が小さく見えます。強くない人は、部屋いっぱいくらい
の盤で考えるから、全体が見えない。遠くから角が利いていても気づか
ない」
 実は、この番組の一月ほど前に、大山康晴王将の考案になるという、
なぜか碁盤と同寸の《大象盤》が発売されて「戦陣布陣が把握しやすく、
指し味に迫力が増す」と広告にうたわれている……すると、大山さんの
頭の中は、米長さんより広いのだろうか? 御両人の説をまとめると、
強くない人は大盤で勉強して、小さな盤を夢で見なさい、ということか。
 そもそも、もっぱら盤外のことに興味が転ずるのは、強くなれない人
であって、たとえば、将棋盤も碁盤も、なぜ正方形でないのか?
 将棋盤は十一×十二寸、碁盤は十四×十五寸であり、同じ一寸ちがい
でも比率が異なる。したがって碁盤と同寸の《大象盤》は、本来の将棋
盤に比べ、やや寸づまりに拡大されている。
 しかし、これでも良いわけがある。
 大橋礼法によれば「盤面を離るる事各々四寸にして端座」とあって、
その位置から盤面を見おろすならば、遠近法によって、タテヨコは等し
く見えるはずである……厚みや高さに特に定めがないのは、人によって
座高などが異なるためと思われる。
 もともと庶民の遊具でなかったから、注文主の思いつきや、製作者の
都合で自由に寸法を決めたらしく、御城将棋や正倉院の碁盤など、たい
てい今の盤より大きい。進歩とともに小さくなって統一された、といえ
ば米長さんの説が当っているし、もとは大きかった、と考えれば、大山
さんの着想がふさわしい。
 碁・将棋・チェス・トランプ・タロット・花札・かるた・麻雀……す
べての原点はインドに発して、西洋ではインチやセンチとなり、東洋で
尺寸におさめられた。チェスは正方形で遠近感がないかわりに立体駒を
用いている(さいきん出現したオセロは、チェス盤に平駒を置いている
ので、対決感に欠けるのではないか)。
 タロットは単純な一×二か二×三であり、トランプになると黄金分割
(一×約一・六)やルート矩形(一×約一・四、紙の裁断規格でもあり、
経済性にすぐれる)が多くなる。
 かれこれそんな事情から、新聞の将棋欄や入門書の多くは、正方形で
表わしているが、本誌《将棋世界》は、厳正なる比率十一×十二である
ことに注目すべきである。
 ところが、NHKのテレビ将棋をブラウン管で測ってみると、相当に
タテナガである。駒台まで見せるための配慮なのか、実物を実測できな
いのが残念であるが……。
 ひとこといえば、これほどまでに完成された芸術品でもある将棋用具
のなかで、例の解説用大盤だけが、どれをみても粗末なつくりである。
 盤外ファンとして、関係者の長考を期してやまない。 (198211・・)
──  《将棋世界 198301・・ 日本将棋連盟》


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