与太郎文庫
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1966年05月18日(水)  静と露 〜 露の仲介と静の失踪 〜

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 父は、息子の婚約を目前に、静に示談金を払ったかのようにみえる。
 何があったにせよ、もっと他に、おだやかな解決方法はなかったのか。
 母の従妹が、高利貸に催促され、父の異父妹にすがったのも解せない。
 
 亡母の従妹と、父の異父妹は、ひとまわりほどの年の差で、いちども
同居したことはない。学歴も育ちも違い、静は未婚、露は再婚している。
 静に相談された露は、静を連れて、父に談判するような恰好になった。
 
 店から帰った息子は、三人の顔ぶれを見て、瞬時に用件を悟った。
 すかさず露も、みえすいた口実を、明るく言ってのけた。
「あんたが婚約者を大事にして、静さんに素気なくするから来たんや」
 
 そこで息子は、三人に加わることを断念して、二階の自室に向った。
 いちおう「なんで静さんが伯母さんとこへ行くんや」と言いながら。
 その夜、露は静の家に泊り、翌日、露の末妹と三人で現われた。
 
 父の死後、このときの誓約書を読むと、静は(息子の結納金と同額)
を受取っていた。いま思うに、露の口添を、父が容認したのであろう。
 露は金を出さず、口を出しただけだ(他に知恵はなかったのか)。
 
 わかい頃の静も、嫁入修行をかねて、わが家に同居していたのである。
 おなじく露も、息子の出産に立会って「いちばんに指の数を確認した」
などと自慢げに語っていた。
 
 陽気な文学少女だったが、離婚して一人娘を育てる苦労もしている。
 亡母の晩年、息子が露の娘と夫婦になって先々、母娘と同居してよい、
と思いついたが、間一髪の差で再婚先の末息子との婚約が成立していた。
 
 このように露と静は、しばしば息子の母がわりのように振舞ったが、
ときには母以上の節介をうとましく感じることもあった。
 この二人が、あろうことか連帯して父を糾弾するに至ったのである。
 
 その後、静は行方不明となり、親戚一同だれも彼女を語らなくなった。
 静は、河豚の調理免許を持っていたので、異郷でも自活できるはずだ。
(花札博打の負けなど踏倒して、温泉宿に住込めば、活路があったろう)
 
 しかしこの発想は、のちのホステス殺人事件で得た後知恵にすぎない。
♀福田 和子 強盗殺人犯 19480102 愛媛 和歌山 20050310 57 /獄死
/19820819 事件(逃亡、整形)19970729 逮捕(時効成立21日前)
 
 静よし無心 〜 母の従妹 静子 〜 ……… 28
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 《伊甲遍路 19870223 阿波文庫》目次
 
…… 亡父は、死の十年前二年間にわたって日記を書いている。ちょう
ど、その日付あたりに、二枚の便箋がはさまれていた。(正之日記)
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(20151219)
 


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