与太郎文庫
DiaryINDEX|past|will
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19480817 http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/list?id=87518&pg=000000 http://www.enpitu.ne.jp/tool/edit.html 魚取り 三年ろ組 阿波 之男 ぼくが夏休みにいなかへ行ってから三日目のことでした。ともだちの お月さん(森田君といって顔がまんまるいのでみんながそう呼んでいま す)と二人でちとせ橋へ魚をとりに行きました。 お月さんのせつめいでは、この川は「やす川」といって川下はびわ湖 へ流れているのだそうです。きれいな石やすなが水をとうして、美しく よく見えています。その中をモロコやゴリや、ムツなどが、気持よくス イスイとおよいでいるのが上からでもよく見えます。 ぼくは、思い切ってズボンのすそをまくり上げてお月さんと二人で水 の中へはいって、持って来たザルですくい取ろうとおもいましたが、な かなかうまく取れません。 岸から見ていると、そんなに深くないと思っていたのに、はいって見 るとなかなか深いので、前の方へ行く事ができません。 ザルも水の中では思ったように動かしにくいのでよわってしまいまし た。 あきらめて帰ろうと思って岸の方へ来たら、大きな岩のかげに、二十 センチくらいのどんこがじいっとしているのを見つけました。 ぼくはさっそくザルをほうり出して手づかみで、取ろうと思ってしづ かに岩の横の方から手を入れて、ドンコの後へまわりました。 目をつぶって思い切ってギューッとにぎりしめました。 「取れた!!」 すなといっしょにドンコがぼくの手の中でピチピチし ています。 ぼくはうれしくてうれしくてたまりません。お月さんも、まるい顔を ニコニコしてうれしそうにぼくの手の中を見ていました。 さっそく二人で持って帰っておじいさんに見せると「こんなのは之男 ぐらいしかとれんわい」と目がねをかけた目をほそくして笑われました。 ぼくはなんだかおじいさんにヒヤカサレているような気持でした。 それでもぼくはうれしくてうれしくて、いつまでもドンコを見つめて いました。 ── 《文集 194903‥ 新洞小学校》P19-20/竹田謄写堂・印刷 Ex libris Awa Library;1949 文集 0 この日付は、義叔母の(翌年の)葉書から推して、お盆(0815)から 三日後(0818)とみられる。「おじいさんにヒヤカサレているような」 という文体は、いまだ父の手が加えられた形跡がある。 http://d.hatena.ne.jp/adlib/19500801 Let'19500810 from 杉原 和代 四年生と六年生の文集が残されていないのは、選にもれたらしい。 五年生では、俳句と称する一行詩が掲載されているが、凡庸である。 中学に進んで豹変するのは、なにかを発見したとみられる。 ── 阿波 之男(五年ろ組)《俳句;裏門のすき間にちらりと自転車通る》 ── 《文集 195103‥ 京都市立新洞小学校》P59/竹田謄写堂・印刷 (20100602)
|