与太郎文庫
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1946年02月28日(木) |
嘘太郎 〜 フラのことば 〜 |
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19460228 少年雑誌に、友人を求めて投書する者もあり、ペン画を投稿して採用 された少年にあてて手紙を出すと、ほとんど返事がもどってくる。その ペン・フレンドは北海道から鹿児島まで、あわせて十数人におよんだ。 しかし、誌面だけでは年令不詳なので、同学年以下の相手にあたると、 敬愛の態度がいちじるしいが、幼稚すぎて物足りない。 そこで自己紹介では、つねに二学年サバをよむことにしたが、さきに 中学に進まれると、いかにも勝手がちがってくる。 丸山君とは、そのあと家に招待して語りあった。茶菓子を運んできた ねえやは、母に「こども同志が、おとな同志みたいにしゃべってはる」 と伝えている。このときの小学校五年生は、中学一年生として対面して、 話を合わせたわけで、どうにかバレずにすませたのである。 重要な最古のウソは、小学校四年の担任・金谷先生に対してである。 先生の姿は、授業が終っても学校のどこかで見つけることができた。 理科室で実験するか、音楽室でピアノを弾くか、あるいは図工室で絵を 描くか──この先生にめぐり会わない人生を、いまも想像できない。 その日、先生は厚手の画用紙に《キュリー夫人像》を描いておられ た。「これは、コンテ画いうてな。陰影に深味がでる」 たしかに、焦茶色の棒切れは、手もとの肖像写真そのままに再現して ほとんど完成まぢかだった。科学を信奉する先生だけでなく、グリア・ ガースンの演ずる戦後初の輸入映画《キューリー夫人》は、西洋の知的 美女の典型として、当時の青年の心に深く刻まれている。 このとき電話か小用か、先生が部屋を出て行くことになった。少年は、 身を賭してでも、先生の作品を守るべき立場にあった。みれば、画面の すぐ近くにインク壷があり、これが倒れては大変なことになってしまう。 少年がいそいで、遠ざけるべく手をのばしたところ、インク壷は倒れて あまつさえ画面の中央にむかって青い液体を吐きだしたのである。 そもそも先生のインク壷は、当時最新のもので、蓋がなくてそのまま ポケットにも入れられるはずだった。「液体には表面張力という特性が あり、これを複雑に応用しているので、容器からあふれ出ない」という 説明を、先生の授業で習っていたものだ。 しかし現実は無残にも、少年の目前で意外な現象を露呈して、戻って きた先生を説得することはできない状態だった。少年はとっさに作り話 をすることになった。「黒田(幸江)君の姉さんが来やはって、インキ 壷を転がして、知らん顔で出ていかはった」というものだった。 先生は「そうか」といっただけで、それ以上追求しなかった。先生の 落胆は作品の損傷よりも、教え子の愚かなウソを受容することにあった。 (ドーデやヒルトンなら、このエピソードひとつで世界の図書館が常備 する短編を仕上げたにちがいない)。 のちに少年は、模造紙いっぱいに唯一のコンテ画《ダビデ像頭部》を 画きあげた。そしてまた大小のウソ(うさぎ日記や宿題)を重ねながら、 ときには他人のウソを厳しく大声で咎めたりしながら成長する。 http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD2177/index.html ── Greer Garson《Madame Curie 19431215 America 19460228 Japan》 http://home.hiwaay.net/~oliver/madamecurie.htm 「嘘には翼が生えている(フラの言葉)」 ── 嘘には足がない。だがスキャンダルは翼をもっている。 Fuller, Thomas 聖職 16080619 England 16610812 53 / ── 《Good thoughts in worse times,1647》 (20001224-20081230)
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