与太郎文庫
DiaryINDEX|past|will
1926年01月19日(火) |
二つの誕生日 〜 江分利 満氏の優雅な人生 〜 |
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19260119 ── たぶん、私は、十月の末か十一月の一日あたりに生まれて、戸籍 上は、いかにも清々しい感じのする、また記憶しやすい明治節の日の生 まれとして届けられたのだろう。 (略) 「ねえ、お母さん、ぼくが十一月三日に生まれたっていうのは嘘でし ょう」そのとき母はギョッとしたに違いない。私は、母の受けた衝撃に ついては知るよしもなかった。 (略) 私は、大正十五年一月十九日に生まれた。それも、私は母の口から聞 いたのではない。親類の誰に聞かされたのか、それとも父方の祖母であ ったのか、判然としていない。いつのまにか、一月十九日という月日が 私の頭のなかに刻みこまれてしまっていた。兄は大正十四年の十月二十 五日に生まれた。それも戸籍上のことであって、本当のことはわからな い。(略) 私は、ずっとそれを信じまいとしていた。アルバムの、兄と二人の赤 ん坊の写真を見ているので、どうも一月十九日のほうが本当らしいと思 うのだけれど、信じたくないという気持が強かった。(略) 私の父と母の婚姻届は、大正十四年十月二十二日に提出されている。 私が生まれたのが翌年の一月なのだから臨月にちかかったと言ってもい いだろう。(略) 私は、大正十五年一月十九日に、東京府荏原郡入新井町大字不入斗八 百三十六番地で生まれた。しかし、私の誕生日は同年十一月三日である。 母が私にそう言ったのである。 ── 山口 瞳《血族 1979 文芸春秋社 19820225 文春文庫》
山口 □□ 瞳の兄 19251025 東京 /〜《血族 1979 文芸春秋社》 山口 瞳 小説 19260119-1103 東京 19950830 69 /〜《江分利 満氏の優雅な生活》
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19870818 山口家の人々 〜 江分利 満氏の優雅な人脈 〜 http://d.hatena.ne.jp/adlib/19950830 伊藤家の人々 〜 江分利 満氏の優雅な血族 〜 (20070711)
|