与太郎文庫
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1921年10月30日(日)  ジョイス紀元0年 〜 脱キリスト教時代 〜

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19211030
 
── 座談会:新たな「世界文学」へ
 
 富山 まずはお二人に、文学との出会いについてうかがいたいと思い
ます。十代に初めて文学なるものに出会う時期に、どういう作品から読
み始められたのでしょうか。
 と言いますのも、最近若い人たちの文学離れが言われますが、文学と
の出会い万が変わってきたというのもそのひとつの原因ではないかと思
うのです。いまの若い人たちは、先に映画やビデオを見たり、漫画を読
んだりという経験があって、その後文学に入ってきているように思いま
す。その意味では文学は、一段上のブランド品になっている。丸谷さん
や三浦さんの世代は、全く別の入り方だと恩うんですが。
 丸谷 エズラ・パウンドの説に、「一九二一年一〇月三〇日でキリス
ト教時代は終わった」というのがあります。これは「ユリシーズ』の最
後の文章をジョイスが書いた目付けです。パウンドは、その日から新た
に脱キリスト教時代に入ったと考える。一九二二年を紀元○一年とする
暦を考えて、〇一年何月何日といった手紙を一九二二年に何通か出して
いたらしい。
 エズラ・パウンドの挿話をヒントにしてみると、ぼくの読書において
は、ジョイスを読んだ時から「A.D.」(紀元)というのが始まる。そ
れ以前は「B.C.」(紀元前)といったような感じがぼくの読書体験の
歴史なんですね。ぼくはたぷん昭和一八(一九四三年に、ジョイスの《
若い芸術家の肖像》と《ユリシーズ》を、岩波文庫で読んでいるはずで
す。ジョイスを読んでからは、それ以前に読んだものもジョイスと関連
づけて理解するという態度になったような気がします。
 『若い芸術家の肖像』で言えば、主人公スティーヴン・ディーダラス
の特色は二つと、もう一つは言葉に対して極端に敏感だということ。そ
れを読んだ後は、「B.C.」の時代の読書歴をすべてそこにつなげるよ
うになる。
 たとえばポーの『黄金虫』なんていう小説を読んで、中学生の時にと
ても感心した。後で思うと、要するにあれは、ものを考える人が出てき
たから、ぼくはあんなに魅惑されたんだなと思うわけ。『罪と罰』のラ
スコーリニコフもそう。さらには吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』
という小説にひどく感心して、それまでの少年小説と違うと思った。
それも主人公がものを考える少年だったからだと。中学生の時には萩原
朔太郎の詩に夢中だったんだけれども、朔太郎の詩の魅力というものは、
言葉に対して極端に感覚的に鋭い人間が言葉だけで何かつくろうとして
いて、そこが他と違うんだと思ったり。何でもジョイスに還元させて考
える態度になりましたね。
 宮山 それは、日本ではかなり変わったタイプのスタートの仕方です
ね。
 三浦 変わったというか、まず一人しかれないでしょう(笑)。
 宮山 丸谷さんは、ずっと日本の古典などを読んでこられて、その上
でジョイスにぶつかっておられますね。でも、ジョイスに感動といって
も、『ダブリンの市民』と『若い芸術家の肖像』を読んだら、あとは『
ユリシ」ズ』しかないでしょう。適度の大きさの石が二つあって、あと
岩がゴーンとある作家ですよね。
── 《図書 200210.. 岩波書店》P2-13
 


 Joyce, James Augustine Aloysius 18820202 Ireland Zurich 19410113 58 /
 Pound, Ezra Weston Loomis    18851030 America Italy 19721101 87 /詩人、批評、音楽家
────────────────────────────────
 丸谷 才一 文芸評論 19250827 山形 /《裏声で歌へ君が代 1982 新潮文庫》
 三浦 雅士 文芸評論 19461217 青森 /1972『ユリイカ』編集長
 冨山 太佳夫 英文学 19470905 鳥取 /《書物の未来へ 2004 》

 
 ジョイスが「ユリシーズ」の最後の文章を書いた目付(19211030)は、
パウンドの誕生日(36才)である。その日付をもって「キリスト教時代
は終わった」という文学的センスは、いかがなものか。(20080506)
 
…… だが、かつて故ミュア氏が、現代イギリス小説に関連して、今ま
での小説は永遠を前提としていたが、今の小説は、「時間を背景にした
時間の物語」だといった。とすれば、一九二〇年代までは、なんらかの
形で永遠が意識されていたことになる。── 平井 正穂・解説
《ロビンソン・クルーソー(下)19911005 岩波文庫》P422
 
(20080506-0917)
 


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