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人物紹介


初めての電話
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バイトの帰り。
生徒手帳に挟んでおいたメモを取り出し、多田さんの家に電話をかけました。

かなり緊張していたように思います。
でも、それはK先輩に電話をかける時とは少し違う感じでした。
一つ一つ、間違えないようにゆっくりとボタンを押しました。

2コールで電話を取る音がし、私は自分の名字を名乗りました。
そして、多田さんの下の名前を言う前に

「おー!待ってたんだよ!」

という声が返ってきました。

その声があまりにも明るくて、私は少し戸惑いました。
待たれているとは、本当に思っていませんでした。
思わず、

「あ、あの電話するつもり無かったんですけど」

と、妙に言い訳がましい事を口走ってしまいました。
それに対して多田さんに、少し子供っぽい口調で

「俺、今日かな今日かなって、首長くして待ってたのにな」

と少し笑いながら言われました。
私は咄嗟に何故か申し訳無い事をしたのだという気持ちになり、

「すみません」

と謝りました。
すると、多田さんは

「いや、ほんと電話くれて嬉しいよ。」

としみじみとした口調で言った後、

「もう、かかってこないんじゃないかって泣きそうだったよ。」

と、ふざけた子供っぽい返事が返ってきて、思わず笑ってしまいました。
そんな多田さんの喋り方に、それまで入っていた肩の力が少し抜けました。

「バイトの帰り?」

「はい」

「お疲れさま」

「ありがとうございます」

「明日、バイトは?」

「休みです」

「じゃ、明日遊ぼうよ」

多田さんのテンポに圧倒されるままに、翌日会う約束をして電話を切りました。

電話を切ってから、急に心臓がドキドキし始めました。
自分は一体何をしてるんだろう?

私は、多田さんに待たれていたということを、どう捉えて良いのか分かりませんでした。
自分が電話をかけただけの事で、あんなにも喜ぶ多田さんの気持ちが分かりませんでした。

こんなに簡単に、また会う約束なんかしていいのだろうか?

少し興奮状態だったように思います。


多田さんとの電話を切ったと同時に、K先輩の声が聞きたくなりました。

なんだか不安でなりませんでした。
多田さんと会う事を迷っていました。

電話をかけてK先輩が捕まったら、多田さんに会うのは止めよう。
そう思いました。


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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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