午前3時にひとのうちを出てあるきはじめた 下駄の音がたよりなく道路にひびいた ぺたぱた、ぺたぱた、ぺたぱた 行き先は土手のうえ まっすぐに歩いていったらまっすぐに水に落ちられます わたしは油のように浮かぶことができないから きっとまっすぐにみなそこに沈んで流れていくでしょう
ぺたぱた、ぺたぱた、ぺたぱた
がまの穂が土手の脇に群をなしていて なんとなく手をのばして触れてみた がさりと触れた茶色のかたまり、ぎゅうっと握っても ソーセージみたいなそいつは案外へこみもしなかった 小さいころから思っていた夢が ひとつ、つぶれた
月は細くほそく紅く 漕ぎ出していく船で行ったら また大海に乗り出す小船のごときで 火星のひかりの強さにも負けた
ぺたぱた、ぺたぱた、ぺたぱた
だれかの話し声がそらから聞こえてきてわたしはおびえる 自動車の通り道に立ち止まることをしても ひっきりなしに続くはずのトラックの列は 地面を揺らしてゆくはずなのにわたしを通り過ぎていかなかった ぐらぐらとこころは荒波みたいに揺らされて わたしはそれにしがみつくのも無意味な気がして ぼんやりと空をみていた
アカルイホウヘ
ふらふらとあるくさきに 自動販売機がふたつあって 右側の、上の段から順番に サンプルの缶をひとつひとつ読んでいった
「そこへ行っても、いいですか」
神様は、わたしに応えてくれなかった。
だからまた、わたしはひとのうちへと帰っていった まっくらな電気に照らされた道 ごうごうと土手の向こうで静かに水が 流れたりゆく 水が
ぺたぱた ぺたぱた ぺた ぱた
それは、8月24日の未明のこと 真火
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