カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 フェミニン

=フェミニン=

まっさらな紙の上に手を載せて、そのまま頭の中のぐちゃぐちゃを染み込ませていけたらいいのに。心が身体と離ればなれだから、頭の中でぐるぐる回ってる思いも、深い溝にことん 落ち込んで、指先まで伝わらない。言葉を選ぶのは、なかなか陳腐だと思ってしまう。いくら言葉を連ねても正確には伝わらないのに、私は、私の思いに よく似てる 言葉を選んでつづる。並べていって、並べていって、始まりから見直すと あまりに見当違いで、私の指先は止まる。言葉にしても、文字にしても、電波にみたいに伝えられたらいいのに。
 鉛筆を置くと、手紙の上に乗せたその時から、もう何時間も過ぎてしまっている。無理に集中を長引かせようと思って、マグカップに珈琲を注いだけれど、もう 冷めた。香りのなくなった珈琲は、アスファルトの上の水たまりみたいだ。マグカップの形に納まっているけれど、きっと飲み物ではないみたいで、私はそれをシンクにこぼしてしまう。シガーケースの中から きっ と、まっすぐ伸びたセブンスターを取り出して、火を付けたら、コーヒーの残り香と煙草の煙が混ざり合って くらくらした。
 煙草も、珈琲も あなたの匂いの一つだから。一瞬 あなたのリアルな像が、かたわら 体温を感じるにはちょっと遠いところに浮かび上がった。
「話してくれないと、分からないよ」
 微笑みと 冷えた目であなたに言われた気がして、私の胸から反射的に飛び出した小さな音は、あなたまでは届かないから、書きかけの手紙の上に 落ちて 沁み込んだ。
私の目は、そのしるしを上手く感じ取ることはできないけれど、

あなたは 

もちろん、なにも感じてくれはしないのでしょうね。


2008年12月15日(月)
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