カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



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誰にも響かず、世界の果てで鳴らされ続ける鐘の音になりたい。残響音が空気を震わせ、やがて果てる。消え去るまでの数秒か。その美しい音色だけを食して生きる幽霊にむかって僕は、文章を連ねる。私は、私の幽霊である。私だけが、私だけの残響音を食し、私は私の色を深めていく。青が青を反射し、青が青を反射する。鏡と鏡の中に少しだけ色濃い青が垂らされて、青が青を反射し、青が青を深めていく。僕を見つめる君の眼球下半分に移る青色。君を見つめる僕の眼球下半分に移る青色。私は、君を見て、君は私の瞳の青を覗き込んで、君の心は、体温は一度だけ温度を冷ます。冷めた瞳に移ろうのは、僕の青色よりも少しだけ色濃い青色。それは僕の心の温度を冷まし、僕の瞳は、君の瞳よりも少しだけ深い青色をともし。悲しみが悲しみをよんで、胸の中へ、中へと深く落ち込んでいくと、あなたはふと、笑って、目をそらした。灰色の瞳は、僕を見つめるけれども、もう、僕の瞳が映し出すのは冷然とたたずむ、灰色の猫模様。探るような目つき。僕は、見透かされた。深く、深いところまでも一瞬に。そうだとしても、その断片はもはや空気に色づける粒子でしかないのです。相乗的なかがみ合わせのあなたがいなくあれば、私の心は反射しないのです。音と音のフィードバックが、ライブハウスで目を凝らすあなたの耳をつんざきました。あなたは不快な表情を呈しました。客席よりも、一段だけ高いだけのステージから、冷静な瞳は、知ってしまった。知らなければ、大海に落ちる一滴。私の眼は、解像度の高いレンズが宙空の滴を円に描くように、一瞬の不響音がすべての旋律を崩し去ってしまう。レンズでとらえた、電子の乱れ。かなれ。成れ果て。五感を研ぐと、薄く、薄く、日本刀の切っ先を、分子と分子の隙間さえ分け入ることが可能になれば、うすく、うすく、鋭さとは違う。鋭さは、きっと、分子の結合を解いてしまうのだらう、水の分子は気体に瓦解してしまって、あなたの脳みその中身の記憶と感情をつかさどる領域を、私の冴えた感性が、覗きこむ隙間さえあれば十分なのです。あなたの思考回路のすきまを縫って、ひだとひだのあいだを押し分けて、原始記憶のかなたから、一瞬のともしびのような、愛と呼ぶには儚い、そんな感覚を愛でたいだけのなのです。私は、笑みを浮かべます。あなたの目の前で。ただ、それはあなたの視界を満たす景色の一角。背景にすぎなくて、そんなあなたのともしびを感じた私の心は零コンマ数度だけ温度を上げて、もし、それが瞳に火をともすなれば、私とあなたの間で燃え上がるかもしれない炎が、きっと、私の耳小骨のなかで響き続ける残響音を、かすかな空調の空潮が吹き飛ばす埃を舞いあげ、埃が音と音のはざまにくさびを打ち込んだ。消え去った。瓦解し、砕け散り霧散した。

2008年12月08日(月)
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