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『傷 慶次郎縁側日記』 北原亞以子 新潮文庫(再読) - 2004年08月21日(土)

傷(新潮文庫)
北原亜以子著出版社 新潮社発売日 2001.04価格  ¥ 580(¥ 552)ISBN  4101414149
[bk1の内容紹介]
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ドラマ化とともに再々読してみた。
時代小説を読むと自分の人生の経験不足が良くわかる。
何回読み返しても味わい深い所以であろう。

本作は直木賞作家、北原亞以子さんの言わずと知れた看板シリーズの第1作である。
宇江佐真理さんの『髪結い伊三次シリーズ』と比較してみるとどうしても主人公慶次郎の落着きが目につく。
伊三次シリーズでは主人公の言動に読者も一喜一憂する楽しみがあるのであるが、本作はいささか地味目である。
宇江佐さんの作品ほど登場人物が生き生きと描かれてないような気もするが、反面、リアルというか身につまされる点では本作に軍配を上げたい。

なんと言っても初っ端の「その夜の雪」が印象的である。
苦髪楽爪とはよく言ったものだと、森口慶次郎は思った。
苦労している時には髪がのび、楽をしている時には爪がのびるという意味だそうだが、娘の三千代が聞いたなら、「父上様のお髪はもう、苦労なさってものびません」と、可愛い憎まれ口をきくだろう。
髪はのびなくとも、世の中は平穏無事がいい。無事だからこそ、陽当りのいい縁側で、背を丸くしていられる。

悪者に凌辱され自害することになった愛娘・三千代を亡くした悲しみと怒りが大爆発するのであるが、読者にとっては度肝を抜くような印象的な作品である。
まさに“仏の慶次郎”じゃないのである。
世にこれ以上の悲しみがないからこそ、達観振りが際立って行くのであろう。

私的にはこの編が好評だっただけにシリーズ化となったような気がする。

2編目以降は、根岸にて隠居生活をする慶次郎であるがかつての元南町奉行所同心時代をも彷彿させつつも、やはり落着きと言うか人生を達観した姿勢が目につく。

どちらかと言えば慶次郎が脇役で登場する編の方が読み応えがあると思うのは私だけであろうか。

今に生きる私たちも彼らの真っ直ぐに生きている姿から何かを学び取らなければならない。
いろんなエピソードが満載の1冊なのであるが、とりわけ吉次の人間臭さはやはり慶次郎にはない魅力を持ち合わせている。
彼が主役を務める「似たものどうし」はとっても強烈な作品である。
きっと胸を締め付けられた方も多いはずであろう。

今後どのように彼(吉次)が成長し、変化して行くかが個人的には本シリーズの評価を左右する1番の要因となるような気がする。

物語はまだ序盤である。
慶次郎の出番が少ないほど物語は白熱するのかもしれないな。
これから連作シリーズをじっくりと味わいたい。

評価8点。
2004年77冊目 (旧作・再読作品21冊目)  


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