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『看守眼』 横山秀夫 新潮社 - 2004年01月27日(火)

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今や、“懸命に生きる人を描かせたらこの人の右に出る人がいない”と言っても過言じゃない横山さんの新刊は、『真相』とよく似たテイストの作品集となっている。
全6編からなる短編集であるが、過去を追憶しつつ今を懸命に生きる主人公たちのせつない想いが読者を強襲する。
ただディープな横山ファンとしたら作品集としてのコンセプトがやや弱いと感じられるかもしれない。

そこでこのレビューでは他の作品との違いに主眼を置いて論じてみたい。

警察小説としてその頂点を極めた感の強い『第三の時効』などと比べると力強さや圧倒的な読後感においては物足りないかもしれない。
ただ、本作では今までの横山作品には影が薄かった感のある、繊細な目配りを読み取ることが出来た。
読者にとって“哀愁的”なものを少しでも感じとることが出来れば、新たな魅力を得たことになるであろう。

警察が舞台の作品は表題作「看守眼」「午前五時の侵入者」の2編しかない。
それも捜査課における“猛烈な出世争い”は描かれてないのである。
特に後者なんかは“ネットハッカー”を題材としていて、ネット愛好者としては興味深く読めることは請け合い。
横山さんとしては新趣向的な作品だといえるであろう。

あと、印象的なのはもうひとつの本職である“新聞記者”を題材とした「静かな家」
この作品はミステリー的な落ちも決まっており、読み応え十分である。

本作で横山さんが描く主人公は、誰もが日常的に起こり得るわずかな“保身”を守る為に葛藤している。

一般的に逆境に陥って追いつめられた時って、どうしても自分の脆弱さに気づくものだが、各主人公は過去を顧みつつも今を懸命に生き、誠実さで跳ね返しているのである。

“人間って弱いものだ。だけど人間って素晴らしい!”と言うことを読み取れた方は少し遅れた横山さんからの“お年玉”を得た事となるであろう。

横山さんにとって“面白かって当たり前だというプレッシャーは並々ならぬものであろう”と思う。
ただ、横山さんの才能の高さで跳ね返せるはずだ。

あなたも6編の人間ドラマに横山さんの“魂の叫び”を感じ取って下さい。

評価8点。    
2004年冊目 (新作6冊目)


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