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『三屋清左衛門残日録』 藤沢周平 文春文庫 - 2003年08月19日(火)

藩の用人を辞め家督を息子に譲り隠居して日記(残日録)を綴る三屋清左衛門を主人公とした連作短篇集。

現代風に言えば、定年退職したサラリーマンの生活を描いてるので少し重松清さんの『定年ゴジラ』を彷彿させる作品かもしれませんね。
でも内容は全然違います。

どちらかと言えば男性読者向きの作品と言えそうです。
他の捕物帖なんかと比べると恋愛要素は少ないし(小料理屋「涌井」の女将と少しありますが)、主人公が高齢(50歳過ぎ)の為にバタバタ剣客シーンもありません。地味と言えばとっても地味なんですよ、この作品は。
でも味わい深いという形容がピッタシの作品と言えそうです。
展開的には後半から藩の派閥争いに巻き込まれる所が見所となっている。
いろんな人がの人生模様が駆け足で描かれている点は見逃せない。
結構、男性はこういう話が好きですね。自然と自分に置き換えてしまいます(笑)

主人公の清左衛門は隠居後もいろんな人から慕われ頼りにされます。
現代に生きる我々としたらそこに自分の定年後の理想を追い求めることも出来そうです。

特に始めはいざ隠居するも世間から隔絶された気となり、自閉的になりそうな所を徐々に打破して行く過程が見所です。
息子夫婦に対する気遣いや、昔の友達との確執。あるいは釣りや道場通いもします。
でも永年培ってきた彼の“人徳”が打破してくれます。

男性読者(特にサラリーマン)にしたら“定年後の理想の生き方”を清左衛門に見出すことが出来そうです。
心が広くて穏やかな理想の男としての・・・

でも本当の定年後ってこの物語が終ってからの方が長いんですよね。

本文中に清左衛門が“昔日を振り返り後悔するシーン”がかなり出て来ます。
きっと一生懸命生きてきたから後悔するのでしょう。

藤沢さんはこの物語を通して“今を大切に生きなさい。そうしたらきっと光がさして来ますよと”と示唆してくれている。
私はそう学び取りましたが、読まれる方の年代によっていろんな捉え方が出来る作品と言えそうです。
まだまだ私には奥行きが深過ぎてわかりかねる部分もあったことも事実です(苦笑)

評価8点


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