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『壬生義士伝(上・下)』 浅田次郎 文春文庫 - 2003年07月29日(火)

浅田次郎に新選組はよく似合う。
本来、歴史小説の楽しみとは“作者の史観を楽しむべきものだろう”が、本作はそれ以外に想像を絶する感動話が盛り込まれており2倍にも3倍にも楽しめる。
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『燃えよ剣』のように新選組の“幹部”(土方歳三)じゃなく“下級幹部とその家族達”にスポットライトを当てた点を称えたく思う。
下級幹部と言っても実質は故郷(南部藩)を脱藩して、お金の為に仕方なく働いている身分のものである。
土方歳三みたいに野心(いい意味の)溢れる人物じゃない。
そのあたりを比べあって読んで行く事によって、余計に味わい深く読むことが出来た気がする。

斎藤一が一人称で語ってる部分を引用したい。
世の中がどう変わるにせよ、新選組に立派な明日のないことはわかりきっていた。世の行く末はわからずとも、これだけ人を斬ってただですむわけはないと、誰もが思うていた。

ここまでして、新選組に入って人を斬った貫一郎に対する擁護の言葉だと受け取った。

と言って、浅田さんは新選組に対して否定的なわけじゃない。
むしろ逆だと思う。

個人的に土方さんに対して思い入れが強いので、数多くはないが浅田さんの土方さんに対する描写にも目が離せなかった。
彼の土方歳三に対する眼差しの暖かさは本書の読後感のよさを助長している。
途中で土方が貫一郎に対して婿入りを勧めるシーンがあるのだがちょっと意外な一面を見たような気がした。
きっと土方歳三に対する“冷酷”なイメージを払拭したかったのだと思う。

五稜郭での土方歳三の潔いシーンも『燃えよ剣』ほどじゃないが垣間見ることが出来た。
榎本武揚との対比において、夢のある男の理想として“土方歳三”を捉えているのも見逃せない。

逆に、浅田さんが家族を大切にする男の理想として“吉村貫一郎”を描きたかったことは言うまでもなく、読者は彼の意図を感じ取らずにいられない。
貫一郎親子、大野親子いずれも深い絆で結ばれている。
“良心を持って生きることの尊さを教えてくれる作品である。”

浅田さんの、過去を回想する語り口の上手さをみなさんも味わって欲しいと思う。
きっと誰にも真似の出来ない領域に達しているように思えてならない。
まるで、吉村貫一郎が妻子に示した愛情のように・・・

評価9点。オススメ




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