Kyoto Sanga Sketch Book
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2008年06月14日(土) |
【横浜FM戦第13節】〜決められない田原。スコアレスドローを破ったものは |
メールマガジン「紫界良好。」Vol.143 2008/05/25寄稿記事より転記
…………▽…………▽…………▽…………▽…………▽…………▽…………▽………… □□□ 2008Jリーグ DIVISION-1 REG13 横浜Fマリノス戦 ま・き・も・ど・し ………written by miyako
〜 不調の横浜を鴨池準ホームで迎え撃ち、オウンゴールを誘った京都。
前節「気力・運動量・出足、あらゆる部分でジェフの方が上回っていた」 と監督自らが認めたジェフ戦。気が付くと下から3位の降格圏に。 中断前の一戦。相手は強豪横浜だがここで負けることは許されない。 京都から600km離れたここ鴨池、家族連れらで賑わう競技場の敷地。 西京極から移動してきたサンガのアーチが据えられていた。 ホームゲームの印をくぐった。 観客10903人
Sanga 1−0 F.Marinos (0−0)
***スターティングメンバー
-------------------------------------------------------------------- | 水 谷 | |______________|
平 島 増 嶋 手 島 中 谷 シジクレイ アタリバ 佐 藤 渡 邉 徳 重 田 原 ------------------------------------------------------------------- ロニー 大 島 山 瀬 小宮山 田 中(隼)
松 田 兵 藤 田 中 中 沢 栗 原 ______________ | | | 榎 本 | -------------------------------------------------------------------
*** スタジアムの雰囲気
ほぼ毎年行われているサンガの鴨池戦。 J2の時は子供たちや高校生サッカー部が目立った硬派な雰囲気があったが、 今年は代表選手の多いマリノス戦のせいか、友達連れ家族連れが目立つ。 観客の無邪気で明るい熱気、期待感が充満。 このJクラブが常駐していないスタジアムは試合前の緊張感はない。 しかし、お祭り気分は例年になく盛り上がっていた。
アウェイゴール裏からは、 遥々鹿児島まで来た青いマリノスサポーター達の声が響く。 50人以上いたのではないだろうか。 雄雄しく統制されたチャントを始めた。 彼らは本当にかっこいいのだが、 南国のゆったりした空気の中でちょっと場違いな感じ。
一方、京都のサポーター達はマリノス側とは対照的。
ホームゴール裏には、 30人ほどの京都サポが、芝生の家族連れたちに囲まれて立つ。 彼らは遠路京都からの人々と少数の鹿児島など九州人の混成。 マリノスサポーターの集団と比べるとこじんまりとして見える。 鹿児島の友人も、今日の3本のサンガ大旗の一つを構えていた。
バックスタンドは京セラの若手社員らしき者たちが集まって歌う。 その周辺の男たちは、鴨池でホームゲームをするJクラブを フリエ、サンガともう10年以上応援している、 鹿児島の筋金入りのサッカーファン達。 彼らは太鼓を抱えてたり、指笛を吹いて応援を始める。
なんかもうバラバラ…なんだけど気にしない(笑)。
相変わらずこのスタジアムは律儀に京都の勝利を望んでいる。 観客たちは、田原豊の顔が大きく写されたプログラムを覗き込んで、 今年のサンガを予習している。 鹿児島出身の3選手の中でも、 特に待ち望んでいるのは多分、田原豊のゴールシーン。
これらすべての想いが、彼らに届けばいいが。 前節ジェフ戦での気持ち負けのプレーが続かなければいいが。
最近、桜島は噴煙を上げて爆発が増えている。 この日は少し曇った天気。 鴨池陸上競技場から見える雄大な桜島もぼやけていたが、 試合が開始するころにはクッキリ灰色がかった巨大な姿をみせていた。 キックオフ。
*** 前半。中盤を厚くした京都が優勢に。
京都はシジクレイを、CBではなく中盤に配した。 扁桃腺炎で欠場の柳沢をはずし、田原を中心にした3トップ。
序盤から京都が押し気味。横浜はそれを受けに回っていた。 山瀬が追って体を寄せる京都の選手を、 一人、二人、三人と振り切る。 シジを振り切ってロニーに繋いでシュート。右にはずれる。
しかし、怖いのはこの二人の個人技ぐらい。 (かなり怖かったので「ぐらい」というのは語弊があるけど)。 中盤を厚くした京都は、シジクレイを中心に 前から互いに降りてくる横浜の前線の選手の動きを封じていた。 パスの出しどころを阻み、高い位置でカット。 横浜の2トップのロニーと大島、トップ下の山瀬の3人は良く動いていたが、 そこからの攻撃は繋がらず、横浜の両サイドは攻撃参加できず、 かえって京都のサイドのドリブルに手を焼いて守備に回るばかりだった。
アタリバのロングレンジのFKはGK目の前に収まってしまったが、 16分。シジから左の徳重に長いボール。二人から挟まれた徳重は、 後ろの勇人にボールを逃がし、 勇人が再度左前の徳重へふんわりとパスを出した。 徳重のシュート!GKが阻んだ。再度田原が押し込もうとする。
スタジアムはどよめき、シュートの失敗にため息をついた。
平島のクロス。ダイゴの右からのミドル。 それらの絶好のチャンスは横浜の代表選手中沢のヘディングでクリアされた。 徳重の右からのコーナーキック。こぼれ球は京都の足で捕らえられない。 また左からのコーナーキック。跳ね返される。
20分。シジがまた奪った。ドリブル。 田原が前線で受けてスピードに乗り、トラップ、そしてシュート。 しかし、GKの手をわずかに超えてゴールを超えてしまった。
またスタジアムのため息。
3人のFW登録のうち大剛、徳重はサイドで攻撃の起点を作っていたが、 実際には田原が一人前に残る1トップのような形。 意外と、この田原の1トップが機能していた。 中沢に競り勝ち、二人のセンターバックに挟まれても豪快に抜き去り、 ボールを受け、キープし、大きな体で相手DFの裏に抜け出、相手を引き付け…。
そう。久々に生で見る田原は、 テレビで見るよりずっと大きく力強く見えた。 スタジアムの期待感はますます募っていた。
*** そして、まだまだシュートチャンスが続くも…
もちろん危ないシーンもあった。 山瀬のドリブルでの独走を許すと、横浜のサイドの駆け上がって来る。 隼磨のクロスをロニーがスルーして左から小宮山が…危ない! しかし手島と増島を中心にDFも集中していた。 山瀬にパスがわたると怖い。 山瀬と増島とのゴール左側での勝負に肝を冷やした。 大島へのボールは旧友、手島が体を入れて阻んだ。
右の大剛からのクロスに走りこんだ勇人の頭が、横浜中沢の頭と激突。 治療中の勇人の前で今度は倒れこむ増島。 担架が用意されそう。野戦病院状態に。 頭にニット帽のような太いテービングされた勇人がピッチに戻った。
36分。また攻撃のチャンス。 徳重からの右からのクロスにマークをはずした田原がジャンピングヘディング。 チャンス!しかし、またゴールを超えてしまう。
またスタジアムのため息。
相手選手に競り勝ったシジクレイの頭にボールが マリノス選手たちを超えて、なんとまた前線の田原へ。 オフサイドはない! 田原が走り中沢が追いかける。
またチャンス!
が、トラップしたボールが少し前にいってしまった。GKがキャッチ。 中沢が仲間に向かって両手を挙げて怒鳴る声が響いた。
こんなに巨大ため息が怒涛のようにスタンド席を覆うのは、 そう経験したことない。我らが期待の田原に、 エーッ、と1万超の人たちが一遍にため息をつくのだから。
ゴール前からすごすご帰ってくる田原。 ホームゴール裏の田原コール。 アウェイゴール裏のマリノスサポーターの雄雄しい応援は淡々と続いている。
前半最後は横浜の時間だった。 横浜の大島がゴールを背にしてボールを受け、横浜がゴール前にパスを回した。 しかし、京都の選手の選手の守りでシュートは右にずれる。 中盤でのパスの奪い合い後、スピードにのったロニーがドリブルをしようとした時、 手島が足を伸ばした。倒れた。 痛さに地面を叩いていた。しかし手島は防いでくれていた。 そして、その後ロニーの蹴ったボールもGK水谷が膝をついてブロックした。
*** 後半。中沢に競り勝つ田原だが。
後半。京都のプレスはまた激しくなる。 コンパクトにして中盤に人数をかけ、相手ボールを絡めとる。 勇人が繋ぎ、スペースを埋め、シジやアタリバが開き、 右の大剛、平島、左の徳重、中谷がドリブルでボールを運び、 とにかく前の田原に集め続ける。
中盤低いところからシジクレイら選手たちも田原に大きく放り込む。 それに応じ、田原はポストになり、抜け出し、飛び込み… そして代表選手、中沢を吹っ飛ばす。 今日は「田原豊」という選手の地元での ワンマンショーになってもおかしくなかった。 これだけボールを集めたんだから。 (本当は2列目3列目の選手もどんどん前に出て来て欲しかったけど)
対応して横浜の中盤の動きも激しくなっていた。 しかし、サイドでボールを持ってもゴール前に選手は立ち竦み固まったりと 何か選手がどう動いていいかわかっていないような感じ。
アタリバからのボール。徳重が左を駆け上がり、また田原が抜け出した。 右からの大剛がワンテンポ上がるのが遅れた。 田原のシュートはまたはずれた。
マリノスも攻撃をする。 しかし、ボールを前線で持った山瀬を サンガ選手が三人(シジクレイ、手島、増島)で取り囲んだ。
苦しくなった山瀬が背後に出したボールを、勇人が奪って前を向いた。素早く徳重へ。 まっすぐ前に速攻。田原に向けて長いパス。
田原が走った。
田原を両側から中沢と4番が猛スピードで伴走し豪快に挟みブロックした。 主審は中沢にファール。 両手を挙げて「オイッ!」と怒りの声を出す横浜のDF二人。 横浜は多分、イライラが募っている。
さて。スタジアムの観客席の巨大なため息も末期症状に。 この膠着状態に、さっきから田原を応援していた人までが、 「もうどっちでもいいから決めろ…」と暴言を吐く始末!
平島交代して中山が入った。さらに攻撃的に行け、ということ。 大剛が左SBに下がった。
この後も、大きく動こうが小さく動こうが、 ボールはよくシジクレイにひっかかる。 右SBの中谷も横浜のサイドを押さえるだけではなく、 ダイナミックなドリブルで攻撃を加えていた。
*** ついに得たゴールはなんと…敵のシュート。
61分。アタリバが奪い、シジクレイからボールは開いた。 ずるずる下がる横浜選手たち。7人もの選手が守備に回った。 それを見て、低い位置から右サイドを大剛が駆け上がった。 大剛が蹴ったボールはゴール前を真横に走った。 ゴールに向かう勇人の足元を、ゴール真正面の田原の足元を、 球はスピードを保ったまま突っ切った。
なんて連携。田原の足に猛タックルしようとする横浜選手。 動きの大きな二人にマリノスのDFたちが吸い寄せられた。 しかし、ボールは二人の足をすり抜けた。 一番彼方、後ろから走ってきた徳重の足にピタリとミート。 力強いシュート! しかし、横浜GKが地に手を伸ばし弾いた。
ため息をつく暇もなく、 ゴール正面の田中隼磨が力強くクリア。 が、それは自分のゴール向かって弾丸のように飛んでいった。 オウンゴール。
倒れこむ隼磨。騒然となるスタジアム。 立ち上がって喜ぶ人々。あまりのことに笑いが漏れていた。 気の毒な事件に、スタジアムは大騒ぎだった。 ホームゴール裏には京都サポーターの旗が翻り、 オウンゴールを誘った徳重のコールをした。
ついに失点をした横浜は、 慌てて猛攻をかけようとしていた。 途中投入の清水は、果敢に動き京都の守備をかく乱するが、 GK水谷が京都を救う。
勢いよく京都ゴールへ突き刺さろうとした隼磨のシュートは GK水谷の左手が弾いた。 大島の振り向きシュートも水谷がパンチング。叫ぶ水谷。 コーナーキックもパンチで跳ね返す。 この時間、水谷はスーパープレイを繰り返した。
Fマリノス!との横浜サポーターの声が響く。 京都サンガ!の京都サポーターの声が聞こえる。 バックスタンドの応援の声と重なったり、ずれたり。 危険な時間を京都は凌いだ。
78分。森岡がボランチに入った。 横浜に制圧されつつあった中盤を締める。
京都の最後の攻撃の時間。 SBに下がった大剛が長いボールを受けた。 左で横浜の小宮山と大剛が二匹の獣のように絡み合いボールを奪い合った。 田原は、中沢と栗原二人に挟まれても突進していった。 彼はまだ労を惜しまず走り、GKに迫った。
そして、少しつづ守りに引く京都。 それでもプレッシングは衰えず。
勝利を前にしたホームゴール裏からは京都祭りの歌が聞こえる。 ついに中沢も攻撃に上がった。 しかし、山瀬のFKはゴールの上を超え…
終了の笛。
*** 試合終了後。南国の空の下、さまざまな人たちの風景。
ハイタッチする京都選手たち。 頭をたれる横浜選手。
バックに挨拶に向かう京都選手を背に、 左サイドから攻撃の起点になり続け、オウンゴールを誘った徳重が、 今日のMOM。メイン席の前でインタビューがされていた。 「得点できればよかったんですが…。地元では負けたくなかったです。 後輩たちからの突然の花束贈呈がうれしかった。」
ホームゴール裏サポーター達はいつも通り 「ブラジル」のメロディーを口ずさみはじめた。 彼らに勝利の報告をする選手たち。サポーターたちと万歳をする。
次は、再三後半のピンチを救ったGK水谷がステージに呼ばれた。 「今日輝いていた選手」、クレサンベール賞という鴨池戦限定の賞。 「(僕ではなく)鹿児島の選手の方がよかったんじゃないかと…」に、 和田りつ子アナウンサーが「そんなことないでよね、皆さん。」。 鹿児島のメイン席では大きな拍手が。 水谷が鹿児島の人々にボールを投げ込んだ。
その横では、頭を垂れたまま横浜選手が引き上げていく。 「中沢さん!」「中沢!」とめったに見れない日本代表を、 メイン席の鹿児島の人々が無邪気な声で呼び止めた。 彼は憮然とした暗い顔のままロッカールームに消えていった。
正直、横浜の不調に助けられた気もする。 また中盤をある程度制したとは言え、1トップに攻撃を頼るのは…。
しかし鬼門、とも言われた鴨池の地での連勝。 ゴール裏の鹿児島の子と嬉しくて抱き合った。 バックスタンドで毎年声出しをする鹿児島のサッカーファンとも、 一年ぶりに会った。「疲れた…でも、J1はいいね」と笑顔で別れた。 スタンド席の九州限定の横断幕を畳む鹿児島の友人。 また、来月鹿児島でキャンプがあるかもよ、と話した。
その後、中山選手のお父様が前日の鴨池での練習を見学していたことを知った。 前日の練習後、確かに中年の男性が静かに観客席に立っていた。 長崎出身の大剛の仲間たちが今日大勢集まっているのも聞いた。
バスを取り囲む鹿児島や遠方からの人々。 やっと会えたプロ選手たちへの憧れの目。 選手の家族、友人たち。 選手にむかって悲鳴のような喜びの歓声がわく。 それぞれの喜びの感情が幾重にもなってバスを囲む。
京都から鹿児島は遠い。九州、鹿児島からまた京都は遠い。 いろんなスタンス、いろんな気持ちの人々が混じる地方開催。 これを「ホーム戦」というにはいつも微妙な気持ちが残るけど。
年に一回。大切な一日が終わった。
*****サッカーは、観た人それぞれ、いろんな見方ができるスポーツです。 *****あなたは、この試合にどんな感想を持たれたでしょうか?
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