Kyoto Sanga Sketch Book
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2001年11月03日(土) |
【J2新潟戦 第41節】 〜昇格をかけた大戦場、ビッグスワン |
今年2回目のアウェイは片道7時間の夜行バスで始まった。
新潟駅。 行き交う人々に、黒服に橙色のマフラーを巻いた長身の男が叫んでいた。 「今日はアルビレックス新潟と京都の大事な一戦です。 みなさん、ビッグスワンに来て下さい。昇格の為に勝たねばなりません」 彼の姿は不思議と新潟の街から浮いていなかった。
今、この瞬間彼は街から浮いていない・・・その理由がわかった。
ビッグスワンに着くと、こ、これは・・・ 新潟の人は今日を代表戦と間違えてない? 観客席も、通路も・・・ オレンジ色のマフラーをした人々が詰め掛け、まるで街のような賑わいだ。
巨大な競技場のすり鉢状の客席に、 4万を超える大観衆がざわめきながらゲームを待ち構えていた。
■ビックスワン 始動!■
大音響、いやファンファーレの大轟音の中、 バックスタンドのてっぺんから オレンジ色の巨大なビッグフラッグが降りていっぱいに広がる。 「敵ながら、なんてきれいなビッグフラッグなんだろう。」 音楽、チアリーダーたちのボルテージも最高潮に。
・・・でも、そんな明るいステージを、 私たちサンガサポは恐ろしい儀式をみるように、ゾッとしながら眺めていた。 だって、4万の観衆が歓喜で待ち構えているものは、 サンガの敗北だから。
「ここは敵地なんだ。」
サンガサポーターは、数百人。 みな、遠い距離で疲れ気味。
■前半■
怒涛のような4万人の歓声。 オレンジ色の無数の大小の旗が まるで大海に広がるさざなみのように振られた。
アルビレックスは本当に強くなった。 「これが、あの、足でイチイチ球を止めてボールの行き場を探してたのと同じチームなの?」 何度も何度も観客の声に答えるかのようにサイドを突破するアルビの選手達に 4万の観衆が呼応して拍手の渦が巻き起こる。
私達のたった数百人の声と存在は アルビへの、ビックスワンの巨大な息遣いにすぐにかき消される。
■前半〜アウェイの洗礼■
わずかにサンガが上回っていたと記憶。 でも、アルビレックスが攻勢になったとたん、 競技場全体から地の底から湧き起こる拍手が後押しをする。
サンガの負けを求める4万の欲望が、 サンガの選手たちを押しつぶし、 いたぶり続けていた。
どちらが攻勢なんて関係ない。 それは残酷なショーをみているようだった。
「こわい。ヤメテ・・・・。やめろってぇ。」
■前半〜最初の得点(アルビレックス)■
ついに4万の歓喜の歓声があがった。 ついにビックスワンが待ち構えていたアルビレックス氏原のゴール。
氏原の名が掲示板にあがると、2回目の波打つような轟きが。 そしてオーラビジョンにそのシーンが再現されたときも・・・
「てめ〜ら、まるで3点入れたみたいじゃないか!(怒)」
「ビビんなよ」 そう、心の中で呟いていた。 「私たちは元J1のサンガだぞ。これくらいでビビんな」
ピッチの上では、まだサンガの選手たちが巨大な白鳥に翻弄されていた。 思わず声が出る。「こわがらないで!!!」
主審のジャッジは双方に酷かった。 両チームのサポーターとも自身に不利なジャッジにブーイングをしていた。
大白鳥は狂ったようにエキサイトしていた。
■後半〜1−2で追いかける■
サンガが黒部のゴールで追つくも、 すぐにアルビに追加点を奪われてしまった。 サンガは2−1で負けているままだ。負けているのだ。
問題は・・・激しい前半の攻防がたたり、 アルビの選手もサンガの選手も消耗してきている。 覇気のない動きに、双方が双方の選手に動きをあわせているような気だるさが。
このままでは負ける。昇格できない。 今日負けた方のチームが、昇格レースから遠のくのだ。
ゲルトがチソンを降ろしてまで、攻撃的なカードを切った。安。 でも、安も、野口さんも冨田も、追加点を奪うにはスピードがみえない。 「ああ、この試合を落とすとJ1に戻れない・・・・」
スタジアムも、アルビの選手たちも私たちの選手をいたぶり続けていた。 大きな怪物の中、正気を失いそう。
■後半〜残り2分。時間がない!■
時間がない。 ライバルの仙台と山形が勝っているのを知った。 あの2チームに引き離されてはならない。あと2試合を残して順位は逆転される。 「終わってしまう。すべてが終わってしまうよ・・・・」
残り2分。
優作のヘッド 新潟の若いゴールキーパーがタイミングを誤ったようだ。 ボールはすり抜けてアルビレックスのゴールの網にからまった。
ビックスワンがシーンとしずまった。
ただ、アウェイ側の小さな一角、私たちが馬鹿みたいに飛び上がっていた。 そして、優作!優作!と叫びながら泣いていた。 同点だ。
■延長突入まで■
「We are ,we are SANGA!」
エンジを組む選手たちのためにずっと、 小さな紫色の一角のサポートは続いていた。
「We are ,we are SANGA!」
ビックスワンの観客が応援を止めているときしか、 彼らに数百の京都の声は届かないかもしれない。 だから、このハーフタイムの時間は大切な時間でした。 アルビが、スタジアムの4万の白鳥たちが羽根を休めている間に・・・・
祈るように、静かに低くコールは続いていた。勝てる。
■延長戦開始■
アルビはさっきの失点で勢いを失っていたよう。 あっ、それでも・・・・ あわや、のところで辻本君が追ついた。クリア! ボールをはじき、片手でガッツポーズをする。
「辻本!辻本!」 (こんな風に彼を頼もしく思った瞬間はいつ以来だろう)
■延長〜12分■
そして・・・・延長12分。
私には熱田が右からゴールの前に走り込んでいくのがみえただけだった。 誰がそのこぼれ球を押し込んだのかわからない。
その最後の選手に誰かが抱きつき、またその上から選手が飛んで抱きつき、 ベンチからもスタッフが両手を広げて走ってきた。 どんどんその固まりは大きくなり、もっともっと大きくなって、 幾重にも幾重にも・・・もう誰が誰だかわからなくなってしまった。
「アン ヒョヨン!アン ヒョヨン!」 もう、たまらなくなって小さな一角、紫のサポーターが飛び上がった!
「勝った!!!勝った!!!」
その瞬間 ビッグスワンの歓声がスーッとひいた。
勝利者、サンガ選手達が互いに喜んでのしかかり合い、 その固まりはどんどん大きくなる。 その横ではアルビの選手たちが銃弾に打たれた死体のように倒れていた。
死力を尽くした戦いの幕切れは、まるで天国と地獄。 そこは戦場の跡だった。 J2、昇格をかけたサッカーは戦争だった。
■終了後■
最高のスタジアム、サポーター、 そしてアルビレックスという素晴らしく成長した敵、
そして・・・自分達の間ではあんなに喜んでいながら、 今日はサポーターサービスの挨拶を忘れて帰っていくあいつら(笑)。
でも、彼らの今の後ろ姿に、 私はこみあげてくるような、”私”の誇りを感じる。 こんな気持ちはなんか久しぶり。 誇らしい、私達のチーム。
「辻本!」
サポーターの声に、辻本君が足を止めて振り向いた。 両手でユニフォームをたくしあげ、サポーターからの贈り物紫魂Tシャツを見せ、 笑顔でピッチから消えていった。
■さあ、J1に戻ろう。■
We are SANGA.
88分でのサンガ優作の入れた同点は、新潟GKのミスだ。 アルビの若いGKは涙を流して自身のミスをサポーターに深々と頭を下げていたらしい。 そんな大切な一戦だった。敵の彼らも全力を尽くしていた。
決死の一戦 今日、”J2”のサンガが本当に好きになった。どの年のチームより、ね。
11月3日 現在2位
11月3日 新潟戦出場メンバー 中河昌彦 辻本茂輝 手島和希 鈴木和裕 熱田眞 朴智星 松川友明 中村忠 松井大輔 上野優作 黒部光昭 野口裕司 冨田晋矢 安孝錬 監督ゲルト・エンゲルス (欠場 石丸)
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