Memo。oO○

2008年03月10日(月)。oO○小ネタ(パラレル21)

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 配達の電話が鳴り響く。
 それは、時として煩悩に塗れた男達による戦いの合図となる。


 ピザ・ウィング。ピザが好きな者も、そうでは無い者も名前くらいは聞いた事があるであろう大手宅配ピザ会社である。そこでバイトに明け暮れる一人の若者…彼の名前は、デュオ=マックスウェル。歳は21、長身と均整のとれた体格に、燃えるような赤い髪、吸い込まれそうな青い瞳、何より誰もが振り返らずにはいられない精悍な顔立ちで日々女性の視線を独り占めにしている、この辺りではちょっとばかり名の知れた大学生である。
 デリバリーのバイトは、とにかく体力勝負である。寒い日も暑い日も雨でも雪でも、配達を頼まれれば走り、ピザが冷めないように時間にも気を遣わねばならない。暇な時は本当に暇なのだが、夕飯の時間帯になると宅配依頼の電話は後を絶たない勢いで鳴り響く。けれども今日は特に忙しくも無く、どちらかと言えば暇を持て余している方だった。
「はい、お電話ありがとうございます。ピザウィング、ご注文担当のマックスウェルです」
 鳴り響いた電話を素早く受け取り、好感度抜群の爽やかな声で応対する。ご注文担当の、とは言ってはいるが、実際はデリバリーもメイクも関係無く手の空いた者が電話を取る。デュオも、本当はデリバリー担当であるのだが、まぁ注文をする客にとってはそんな事どうでも良くピザさえ届けば問題ないのでこの際気にしない事にする。
「…宅配を頼みたいのだが」
 聞こえてきたのは無愛想な男の声だ。それでも相手はお客様、デュオは模範のようににこやかな対応をする。
「はい、お電話番号の方宜しいでしょうか?」
 聞いた電話番号をパソコンに入力すると、その顧客のデータが表示される。名前や住所の他に、備考として店員のコメントが付け加えられていたりする。曰く、この客は愛想が良いとか、美人だとか、頑固オヤジだとか。
(この客は…えーと)
 電話口で注文を受けながら、目線はデータを追う。備考の欄を見ると、誰が記入したのか一言…‘すっげー美人!!’とだけ書かれてあった。だが、今電話に出ているのは若い男の声である。
(ざーんねんでした、彼氏持ちだよ)
 データを記入した誰かに向かって心の中で笑う。
「はい、では1丁目のドーリアン様のお宅ですね。二十分後くらいにお届け致します」
 ありがとうございました〜と電話を切って、さて宅配の準備をするかと振り返れば…その場に居た男全員が、瞳を耀かせてこちらを凝視していた。はっきり言って、怖い。
「…な、何だよ皆して」
「デュオ!!その配達俺に行かせてくれ!」
「………ハイ?」
 おいおいまたかよ、とデュオは心の中で嘆息する。そんなデュオを尻目に、その場に居た男共は口論を始める。
「いや、オレだ、オレが行く!」
「いーや、今日は俺だって」
「お前この間も行ったじゃねーかよ!」
「ダメだ、俺が行く…!」
「いや、オレだ!!」

「………………」

 いつの間にかデュオを無視して激しく口論し出した同僚達に、デュオは呆れながら淡々と宅配の準備をする。美人の客からの注文があると、毎回こうなのだ。いつもは大して行きたがらない配達なのに、皆我先にと行きたがる。全く現金な物である。
(まぁ、気持ちは分かるけどなぁ)
 しかしまぁ、デュオは正直そこまで女に飢えてはいないので、その輪には加わらない。醜い争いは一度始まってしまえばなかなか決着が着かないのを熟知しているので、デュオは注文のピザを抱えると出口に向かい、振り向きざまにこやかに言った。
「んじゃ、オレ配達してきまーす♪」
「あ、コラ待て、デュオ…!」
 自動ドアの閉まる背後で、待てだとか、彼女をお前の毒牙に掛からせる訳には、だとかいう叫び声が聞こえる。
(全く、シッツレーなヤツら…)
 いくら何でも、客に手を出す訳無いじゃないか。自分が一体どんな目で同僚から見られているか分かった気がして、デュオは深く深く嘆息しながらバイクのエンジンを回した。


「一丁目のドーリアン…」
 お、ココね、とデュオは目の前に立ちはだかる大きなマンションを見上げた。見るからに高級そうな、高層マンションである。
「はぁ〜…こんなトコに住んでる人間もデリバリー食うのね…」
 まるで自分とは違う世界の人間を思い浮かべて、デュオは感嘆の息を漏らした。
「…っと、配達配達」
 品物を冷ます訳にはいかない。デュオは慌ててマンションへと足を踏み入れた。まるでホテルのように綺麗な内装に居心地の悪さを感じながらも、エレベーターに入り目的の十一階のボタンを押す。
「…えぇ〜っと、1111号室…は………お、あったあった」
 用心の為なのだろうか、表札は付いていなかったが其処は確かに1111号室、電話で注文を受けた場所だ。インターホンを押せば、暫くしてから足音が聞こえてきた。
(…そーいえば)
 物凄く美人だという、ここの住人、一体どんな顔をしているのだろうか。デュオだって男だ、飢えてはいないが好奇心はある。何となくワクワクしながら待っていれば、チェーンと鍵を外す音が聞こえ、徐に扉が開いた。
「お待たせしました、ピザの宅配に参りました」
「まぁ、ありがとう」
 中からひょっこり顔を覗かせたのは、一人の小柄な女性だった。線の細い体つきに、ロングストレートの金の髪、パッチリした瞳…確かに、同僚たちがあれ程までに騒ぐのも頷ける美女だった。どこか気品のある顔立ちは、こう言っては何だがデリバリーのピザを食べるようにはとても見えない。
「えー、○○ピザのM一枚と、お飲み物が…」
 義務的に注文を繰り返し、それから合計金額を提示した。すると女性はニコリと笑ってお金を差し出した。
「はい、どうぞ。…あ、少し待って下さいね」
 言うと、女性は部屋の中を振り返った。
「ヒイロ、中に運んでくれない?」
「…あぁ」
 中から聞こえた声は、デュオが注文時に聞いたものと同じだった。恐らく、この金髪美女の恋人か何かだろう。こんな美人を捕まえるなんて、一体どれ程の男かとデュオは興味が湧いた。けれども足音が聞こえ、中から現れた男を見た瞬間…デュオは息を飲んだ。
「全く、デリバリーの何処が良いんだ…」
「あら、結構おいしいのよ?この間ヒルデが頼んでくれて―――」
 面倒臭そうに現れた男が、顔を上げて玄関で立ち尽くしているデュオに視線を移した。
(…っう、わ…)
 漆黒の髪に、色白の肌。それから夜の海のように蒼い瞳は見た事も無い程綺麗で…それを縁取る長い睫だとか、赤い唇だとか、デュオは全てに目を奪われた。正直、絶世の美人だ。男だ、どこから見ても男だし胸も無いのだが…ただ、そんな事はどうでも良く思える程に綺麗な男だった。デュオは訳も分からず自分の心臓がバクバクと音を立てているのが分かった。
 男が段々と近付いてきて、その細い腕を伸ばしたかと思うとデュオの抱えていた品物を受け取った。その際に僅かに手が触れてしまい、デュオは心臓が飛び跳ねるのを感じた。
(何だ、何だ何だ何だ…!?)
 ヤバイ、マズイ、自分は一体何をそんなにドキドキしているのか。
 気が付くとお金を握り締めていた手を緩めてしまい、辺りにお金の散らばる音が響いた。
「!!…っあ、すみません!」
(ひぇーっ何やってんだよオレ!しっかりしろ!!)
 慌ててしゃがんで落ちた小銭を拾い集めれば、ふと先ほどの白い腕が伸びてきた。見つめるデュオの前で、綺麗な指先が一つ一つ小銭を拾っていく。全部拾い終えると、何も言わずにデュオへとそれを差し出した。
「…ありがとう、ございます」
 デュオが呟くように礼を言えば、男は少し意味ありげにデュオの顔を見つめた後、軽く目を伏せて踵を返した。その部屋の中に戻っていく背中をぼんやりと見つめているデュオに、女性の方が再びニコリと笑いかけた。
「ご苦労様でした、またお願いしますね」
「リリーナ、早く来い」
「分かってるわヒイロ」
 それでは、と女性は静かに戸を閉めた。
「…、………」
 何だったんだ、今のは。
 デュオは扉が閉められた後も、暫しの間呆然と立ち尽くしていた。ノロノロと歩き出し、エレベーターに乗る。下降する時の浮遊感の中でも、デュオはぼんやりとしていた。
 何だろう、あの男の顔が頭から離れない。
「…ヒイロ、か…」
 名前まで綺麗な響きだ。そんな風に考えてから、デュオはハッと大きく首を横に振った。
(な、何考えてんだオレ!相手は男、男なんだぞ…!しかも)
 しかも、超美人な彼女持ち。
「………はぁ…」
 知らず知らずの内に溜め息が出てきた。何だか分からないけど、一気に気持ちが萎えた気分だ。一体何の気持ちかはこの際追求しない方が自分の為にも良いような気がする。
(忘れよう、俺は何も見なかった)
 そう、何だか分からないけど、彼の事は忘れてしまうに限る。その方がいいと本能が告げている。
「もう、会うこともねーだろうしな…」
 その呟いた声が思った以上に沈んでいた事には、気付かない振りをして。


 まさかその翌日、同じ大学内で彼と再会する事になろうとは、夢にも思わず。



*********
 
以前ニイチサイトやってた時に、載せようかなーと思って書いたけど結局そのまま放置してたSSがあったので、引っ張ってきました。読み返してみたら、意外にもその後の妄想が広がったので。(笑)何でピザ屋かと言うと、当時ピザ屋さんで働く人のブログみたいなのを読んで、それが面白かったんですよね。読み進めてる内に、何故か宅配先で彼女持ち(デュオの誤解)のヒイロに惚れるデュオって萌える…とか思ったみたいです、確か。今も昔も変わらずフリーダムな私の思考回路…。んで、以下新しく妄想してみた。


最後の一文にも書いてるけど、ヒイロとデュオは同じ大学で、この後大学内で再会する事になるんです。勿論同じ学年。実はヒイロはデュオの事を知ってたんです。デュオは有名人だし、とっかえひっかえ色んな女のコと歩いてる姿をヒイロは何度も目撃してたから。なのでデュオに対する印象は最悪。(笑)でも、何となく目のいく存在だったんだよ。で、デュオは女にしか興味なかったので当然ヒイロのことは知らなかった。ヒイロは目立つのを良しとしないので、普段も極力目立たないように、帽子で顔を隠したりしてる事が多かったの。でもヒイロもどう隠しても超絶☆美形なので(笑)、何気に有名で、女のコ達が噂してるのを実はデュオもよく耳にしてたんです。ただ、ユイってファミリーネームしか聞いたこと無かった上に、他人の、しかも男には全く興味が無かった為、ヒイロって下の名前じゃ気付かなかったという…!
んで、翌日もヒイロの事で頭がいっぱいなデュオの目の前をヒイロが通りかかって、「あーーっっ!!?」みたいな。(笑)周りの女のコ達に「ユイ君と知り合いなの?」とか聞かれて、「え、ユイ?おまえ、ヒイロ・ユイ!?」となり、そこで初めて気付くデュオ。まぁ当然ヒイロには無視される。で、まぁそこからニイチ物語が始まる訳ですよ!(笑)ちなみに、リリたんはヒイロの彼女…ではなく、従姉妹という設定です。なので、リリたんの家に来ることもある。リリたんは別のお嬢様学校に通う大学生*´ρ`*でもデュオはヒイロの彼女だと誤解してるし、ヒイロはヒイロで女好きのデュオが自分にちょっかいかけてくるので、リリたん目当てなんじゃないかと誤解して、更に険悪ムードになったり。ヒイロはリリたんが大事なのさ!

などなどなど、あれこれ妄想を膨らませてみました。もはやピザ屋関係ないですね。長々とお疲れ様でした。(笑)あー、ニイチ妄想楽しい…!ニイチは私の原点なのでいつまで経ってもキュンとする…


レスポンス!
羅那さん→こんばんは!お忙しい中リンクの張り替え、そしてわざわざご報告までして下さりありがとうございますー!お手数おかけしました>_<羅那さんの方も頑張って下さいませ〜^^SSのアップ、楽しみにしております♪

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