「目、つぶんな」 「あ、え…」 「ほら、力抜いて、寝るのに緊張してどうすんの」 「あ、あのっ」 「よしよし」
ふと、三橋は頭に熱を感じた。 そして、それが涼子の手であることに気付いた。 かきまぜるように、慈しむように、彼女は彼の髪に触れていた。
「おやすみ、三橋」
頬と、頭の上から伝わる自分のものでないその温度に、 三橋の身体は少しずつ柔らかく融けていく。 例えばそれは、遠い昔に母親に抱かれて眠ったときのように、 更に言えばその子宮の中で揺られて覚醒を待ったときのように、 安らかな感覚であった。 三橋は、自分の意識が段々と「向こうの方」に消えていくのを何となく感じた。
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