さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
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2003年02月10日(月) |
にゃん氏物語 紅葉賀01(もみじのが) |
光にゃん氏訳 源氏物語 紅葉賀01
朱雀院の行幸は十月の十数日である その日の歌舞は特に選ばれた 人が行うと評判である 後宮の皇后や中宮や女御たちはそれが御所 でないと見られないのを残念に思う 帝も藤壷の女御に見せることが できないのを残念に思って当日と同じ事を試楽として御前でやらせて みた 源氏の中将は青海波を舞った(鳥兜をかぶった舞人二人が剣を腰に 帯びて舞う) 舞人の相手は左大臣家の頭中将である 他の人よりも優れた風格の この人も源氏のそばで見ると 桜の隣の深山の木という表現で言い 表される
夕方前に明るくなった日光のもとで青海波は舞われた 音楽も音声も 特に冴えわたって聞こえた 同じ舞でも顔つきや足の踏みさばきの 上手さは他で見る青海波とは全然違う感じがした 舞手が歌う所は これが極楽に住む声が特に美しい想像上の鳥の加陵頻伽の声という ものかと思うほど美しく聞こえた 源氏の舞の見事さに帝は涙を落とした 同席した高官や親王方も同様 だった 歌が終わり袖が下に下ろされると待ち受けたように音楽や 音声が一斉に起こり その上に舞手の頬が染まって普段よりもさらに 光る君に見えた 東宮の女御は源氏を美しく思いながら心は穏やかでなかった 「神様があの美貌に心を奪われて何か起こるのではないか 気味が 悪い」こんなことを言うので若い女房などは情けないことを言うな と思う
藤壷の宮は自分にやましいことがなければもっとよく美しく舞を見る ことができるのにと思いながら夢をみているような気持ちだった この夜の宿直の女御は藤壷の宮だった 『今日の試楽は青海波が王だった 感想はどうですか』 宮は返事がしづらくて一言「特別によかったです」 『もう一人の方も悪くない 曲に合わせての表現や手振りなど貴公子 の舞にはよい所が見られる プロの名人は上手だが無邪気な艶な 面白みを見せてくれない これほど試楽の日に皆見てしまっては 朱雀院の紅葉の日の楽しみが薄れてしまうが 貴方に見せたかった からね』などと帝は言った
翌朝源氏は藤壷の宮へ手紙を送った どう見てくれたでしょうか 苦しい思いに心を乱しながら舞いました
もの思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うち振りし心知りきや 物思いに沈んでおり 立って舞う元気などない我が身なのに袖を 振って舞った心の内を解ってくれましたか 失礼をお許し下さい と書いてあった 目がくらむほど美しかった昨日の舞を無視することができなかった ので宮は返事を書いた
から人の袖ふることは遠けれど起ち居につけて哀れとは見き 青海波を中国の人が袖を振りながら舞ったとかいう古い昔のことは よく知りませんが昨日の貴方の舞ぶりはしみじみ感じて見ました (袖ふることと古いことをかけてある)一観衆として… ごく稀に得た短い返事でも受け取った源氏はとても幸せだった 中国の青海波の曲の起源なども知っていて作られた歌であり 藤壷はすでに十分な后としての見識をそなえているなと源氏は 微笑んで手紙を広げて見入っていた
行幸の日は親王方も公卿もいるだけの人が帝のお供をした この日に必ず行われる音楽を演奏する船が池を漕ぎまわり 唐の曲も 高麗の曲も舞われて盛大な宴だった 試楽の日の源氏の舞姿があまりにも美しかったので 災いが美しさに 惹かれてやってくるのではないかと帝は心配になって寺々で経を 読ませた それを聞いた人は親子の情愛はそういうものだと思ったが 東宮の女御だけはあまりの可愛がりように妬んでいた
楽を演奏する人は殿上役人から地下:じげ…昇殿を許されない 官人まで優れた腕と認められている人達が選ばれた 参議:宰相の二人と左衛門督 右衛門督が左右の楽を監督した 舞手はそれぞれ今日まで良い師匠について稽古した成果をみせた 四十人の楽人が吹き立てる楽音に 誘われて吹く松風は奥山から風が 吹きおろす深山おろしのようでした いろいろな秋の紅葉が散りかう中 青海波の舞手が歩み出たとき これ以上の美はこの地上にはないと思えた かざしに挿した紅葉が風で飛ばされ葉数が少なくなったのを見た 左大将がそばに寄り庭前の菊を折って差し替えた 日暮れ前に時雨が振った 空もこの舞手に心を動かされたように 思える
美貌の源氏が紫を染め出した頃の白菊を冠に挿して 今日は試楽の日 よりも細やかな手さばきまで完璧な舞振りだった 最後に少し 引き返してもう一度舞うところなどは神聖すぎて皆ぞっとした 人間がすることとは思えなかった 物の価値のよくわからない下人 木の陰や落ち葉の中に埋もれる ようにして見ていた者さえも 少し解る者は涙を流していた 承香殿の女御を母に持つ第四親王がまだ童形で秋風楽を舞ったのが その次の見物だった この二つだけがよかった あとはどの舞も 興味を惹かない 無い方がよかった その夜源氏は従三位から正三位に上がった 頭中将は正四位下が 正四位上になった 他の高官達にも影響して昇進するものが多数いた これは源氏のおかげであることを皆は知っていた 今の世でこんなに 人に幸運をもたらす源氏は前世で優れた善業を行ったのでしょう
そのことが終わってから藤壷の宮は宮中から実家へ帰った 逢う機会を伺っていて源氏は宮邸の訪問ばかり気にする 左大臣家の 夫人の所へもあまり行かなかった 普通の人のように恨み事でも 言えば源氏も事実を話して自分の考えを説明して気持ちをやわらげる こともできるが 一人であれこれ詮索して恨んでいる態度が嫌なので 源氏は他の人に浮気心を寄せるのである
とにかく夫人は完璧な女で欠点は何も無い 誰よりも最初に結婚した 妻なので心から尊重している それを解ってくれないうちはしょうが ない いつかはきっと自分の思い通りの妻になるだろう そう源氏は 思っている 彼女がちょっとした事で離れていくようなことはできない性格である ことも源氏は信じて疑わなかった 永遠に結ばれた夫婦としての愛には特別なものがあるのです
若紫はしだいに慣れ親しんで性格の良さや美しさが源氏の心を惹いた 若紫も無邪気に源氏をとても愛した 源氏は家の者にも誰であるか知らせないように今も西の対に 住まわせて設備を華麗にして 自分もいつも西の対に来て若い女王の 教育に力を入れている 手本を書いて習わせたりもして 今まで他の家にいた娘を呼び寄せた 優しい父親のようにしていた 事務所を作り家司も別に任命して 貴族生活をする不自由を感じさせなかった しかしながら惟光以外の者は西の対の主が誰なのか不信に思っていた
女王は今も時々尼君を恋しがって泣く 源氏のいる時はおさまって いるが夜にたまに泊まって通う家が多くて日が暮れると出かけるので 悲しがって泣いたりする 源氏はそれを可愛いと思う 二日三日御所に出てそのまま左大臣家へ行く時など若紫はすっかり 滅入ってしまう それで源氏は母親のない子を置いて来ている気がして恋人の所へ 行っても心が落ち着かない 僧都はこんなことを聞いて不思議な気持ちながら嬉しかった 尼君の法事が北山の寺であった時も源氏は厚くお布施を贈った
藤壷の宮の自宅の三条の宮へ様子を探りに源氏が行く 王命婦 中納言の君 中務などの女房が応対した 源氏は よそよそしい扱いに不満だったがそれを抑えて普通の話をしている ときに兵部卿の宮がきた 源氏が来ていると聞いて座敷へ来た 貴族らしい艶な風流男の宮をそのまま女にした顔を源氏は想像して みても美人だろうと思えた 藤壷の宮の兄君であり可憐な若紫の父君であることに親しみを覚え 源氏は色々な話をした 兵部卿の宮もいままでより打ち解けて見えた 美しい源氏を婿だとは知らないでそのまま女にしてみたいと若々しく 考えていた 夜になると兵部卿の宮は女御の宮の座敷のほうへ 入っていった 源氏はうらやましく思った 昔は陛下が愛子としてよく藤壷の御簾の 中へ自分を入れてくれて今日みたく取次ぎが間に立たないで直接 口から話が聞けたのにと思うと今は恨めしかった
『度々伺うつもりですが 来ても御用がないと怠けがちになります 命じてくれることがあれば遠慮なく言ってくれたら光栄です』 などと堅い挨拶をして源氏は帰った 王命婦もどうすることもできなかった 宮の気持ちをそれとなく 観察しても運命による恋の過ちであり 源氏を忘れないと言う事は 自分を滅ぼすということである 以前よりその気持ちが強い様子 であるからどうにも手をだせない はかない恋を消極的に悲しむ藤壷の宮とは対称的に 激しい恋を積極的に思いつめる源氏であった
少納言は思いもよらぬ幸運が小王女にやってきたのを死んだ尼君が 絶え間なく愛孫のことを仏に祈願した効験だと思う ただ権力の強い左大臣家に第一夫人がいて あちらこちらに愛人を 持つ源氏だから正式に結婚する時になって色々問題が起り 姫君が 苦労するのではないかと恐れている しかしながら姫君は特別であり少女の頃からこんなに源氏に愛されて いるから将来の心配はいらないと思った 母方の祖母の喪は三ヶ月で それが過ぎて師走の三十日に喪服を 着替えさせた 祖母は母代わりをしていたから喪が明けても派手 にはしないで濃い色でない紅色 紫 山吹などの落ち着いた色で 布地のとてもよい織物の小うちぎを着せた 元日の紫の女王は急に 大人びた美人に見えた
源氏は宮中の元旦の朝拝に参代しようとして紫の君の西の対に ちょっと立ち寄った 『今日からはもう大人になりましたね』と笑顔で源氏は言った 光源氏の美しさは言うまでもなかった 紫の君は雛人形を出して遊びに夢中になっていた 三尺ある据棚 二つに色々小道具を置きその他にも源氏から与えられたいくつもの 小さく作った家を座敷中に並べて遊んでいた 「悪鬼を追い払うと言って犬君が壊してしまったから私が直して います」と姫君が言って一所懸命小さい家を直そうとしている 『まったく慌て者ですね すぐ直させます 今日は祝日ですから 泣いては駄目です』と言い残して出ていった春の衣の源氏を女房達は 縁側近くまで出て見送る 紫の君も同じように見送ってから雛人形の 源氏の君を綺麗に着せ替えて参代の真似事をさせたりしている
「もう今年からは少し大人らしくして下さい 十歳以上の人は お雛遊びをするのはよくないと世間では言います 貴方はもう良人が いるのですから奥様らしく静かに落ち着いていなければなりません 髪をすくのも嫌がってはいけません」などと少納言が言った 遊びばかりに夢中になっているのを恥ずかしいことであると解らせる ために言ったのに女王は心の中で 私には良人があるの それは源氏の君なの 少納言とかの良人は皆美しくない 私はあんな若くて美しい人を良人にした と思った こんなことは はじめてだった 年を一つとって大人になったせい かもしれない 何となく姫君の幼稚さは 御簾の外の所まで来る家司や侍達に 知られて怪しまれはしたが誰もまだ名だけの夫人とは知らなかった 源氏は御所を退出して左大臣家へ行った いつものように夫人から 浮気男を見下す よそよそしい態度をとられるのが嫌で源氏は 『せめて今年から貴方が暖かい心で私を見てくれるといいと思う』 と言う 夫人は二条の院へ女がきたと聞いてから 本邸へ置く人は源氏の 一番愛する人であり やがて正夫人と公表する人であると妬んでいた 自尊心を傷つけられているのである しかし何も気づかないように冗談を言って行く源氏に負けて返事を するなど魅力があった 四歳年上なのを夫人は恥ずかしく思っている が美しい女盛りの貴女なのを源氏も認めている どこにも欠点のない妻を持っているが自分の浮気のせいで恨みを 買うことになって 愚か者で悪いのは自分だと源氏は思っている
大臣と言っても特に大きな権力者の今の左大臣が父で内親王の母から 生まれた唯一の娘なので我がままであり少しでも粗末に扱われては 許せない 帝の愛子の源氏はそんなことは関係ないと教えている こんなことが夫婦の溝を作っているのだ 左大臣も二条の院の 新しい夫人の件などで問題のある婿君の心を恨めしく思うが美しい 源氏に会えば何もかも忘れて愛情をそそいでいた 今も変わらず 歓迎する
翌朝源氏が出ていこうとするとき大臣は服を着ている源氏に 有名な宝物になっている石の帯を自分で持ってきて贈った 正装した源氏の姿を見て帯の後ろの形を大臣は直していた くつも自分の手で持ってくるほどである 娘を思う親心は源氏の 心を打つ
『こんな立派なのは宮中の詩会があるときに使いましょう』 と贈り物の帯について言うと 「その時にはもっといいのがある これは少し珍しいだけの 物ですから」と言って大臣はあえてその帯を使わせた この婿君を大事に世話することに大臣は生きがいを感じていた 時々でも婿として源氏を出入りさせていれば十分な幸せが大臣に もたらされると思えた
源氏の参代場所は数えるほど多くなかった 東宮と一の院に行って から藤壷の三条の宮へ行った 「今日はまた特に綺麗に見えます 年をとるほど立派になられる 方ですね」 女房達がこうささやく中 藤壷の宮は少しの几帳の間から源氏の顔を ちらっと見て複雑な思いでいた 出産予定の十二月を過ぎ今日こそはと準備して三条の宮家の人々も 帝も出産の心構えをしていたが何もなく一月経った もののけが 出産を遅れさせているのかと世間の噂になっていて宮は苦しかった こんな噂によって悪名をつけられる人になるのだろうかと悩み苦しみ 身体に障るので具合も悪いのである それを聞き源氏も思いをめぐらし人に目立たないように産婦の宮の ためにあちらこちらの寺で祈祷をさせた この間に宮が亡くならないかという不安が なおさら源氏の心を 暗くしていた
二月の十数日に皇子が誕生したので帝も安心して満足した 三条の宮家の人々も安心した 宮はこのまま生きていこうとする心が恥ずかしかったが 弘徽殿あたりで呪いの言葉を言われていると聞いているのに ここで死んでしまうのは惨めで笑い者にされてしまう そう思った時から努力して今死ぬわけにはいかないと強い気持ちで 身体も少しづつ回復した 帝は新皇子をとても見たがっていた 源氏は誰も知らない父としての 愛情心に目覚め 付き添いの少ない隙に伺った
『陛下が若宮にどんなに会いたがっているでしょう そこで私が 見て様子を伝えるのがよいと思います』と源氏は申し込む 「まだ生まれたてなので見せたくありません」と母宮は挨拶した 見せないのは理由があった 若宮の顔は驚くほど源氏に行き写しで 他人とはとても思えなかったからである 藤壷の宮は良心の呵責に大変苦しんでいた この若宮を見たら 自分の過ちに気づかない人はいないだろう 何もなくてもあら捜しを して人を責めるのが世間である どんな悪名を自分は受けるだろう 結局不幸なのは自分なのだと思うと熱い涙がこぼれる
源氏はたまにタイミングよく王命婦が呼ばれた時 いろいろ言葉 巧みに藤壷の宮に逢わせてくれと頼むがもう何の効果もなかった 新皇子拝見の望みに対して王命婦は 「なぜそんなにしてまで言うのですか 自然にその日が来る のではないですか」と答えた 無言の二人の心の探りあいがあった 口に出せる事ではないので なおさら言葉にしにくかった 『次はいつ私は宮と直接話ができるのだろうか』と言って泣く 源氏が王命婦には気の毒に思えてならない
いかさまに昔結べる契りにてこの世にかかる中の隔てぞ どのように前世で結んだ約束で今の世に及ぶ二人の仲 二人の心の中の隔たりだろう わからない わからない と源氏は言う 命婦は宮の心の苦しみを十分解っていて それを告げるのが 恋の仲介をした自分の義務だと思った
見ても思ふ見ぬはたいかに嘆くらんこや世の人の惑ふてふ闇 見てる人も物思いしてるのに見ていない人はどんなに悲しみに 浸るでしょう これこそが世の中の人が思い悩むという 迷いの世界であるこの世です どちらも同じく気の毒だと思います と命婦は言った
さくら猫にゃん
今日のはどう?
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