2002年10月10日(木) 翻る稲穂の中



大学に入ってから、よく聞かれるようになった



『大人と子供の差ってなんですか?』



そんな疑問に対して明確に答えられるほど、

自分はまだ大人だと思っていない



きっと、それは大人になった時に分かるものなのだ

…そう思っている



ただ、それでも幾つかの答えは見つけた

そのうちの一つが、『親に対して感謝も出来ないような奴は子供だ』








一人暮らしは高校卒業してから始まっていたが、

その大変さを実感したのは20歳を過ぎてからだと思う



年金・税金・罰金・講習金・更新代、求められるのはいつも“金銭”

免許を持ってからそういう“金の問題”には出会っていたが、

より濃く、それを実感したのは20歳を過ぎてからだった



生活の中でも“金”はいつでも存在する



光熱費・設定料・使用料・掃除代…

求められるのは、いつでも“金”だ

そして、社会は金を払わない者に対して冷たい

その時は“責任”の名の下、制裁を加えてくる



学生っていうのはどうだろうか…?

自分で働いて全てを賄っている奴なんてそうはいない

バイトはしているだろう…だけど、その殆どは交遊費だ

そりゃあ、中には全てを賄う人もいるだろう

でも、おうおうとして、それは少数派…だと思う



“金”ってヤツはじっとしていたって降って来るわけではない

それ相応な働きをするか、

または、親からだ



今まで通り、何も気にしないで“金”を使っていれば、

いつかは出会う、不足な事態



そんな時は心が荒む

ただ、『金が無い』それだけで、焦燥感・孤独感・寂しさに囚われる

何だか、凄く嫌な場所に放り出されたような気分だ



こんな気分にはならなかった、高校時代には







人ってヤツは、ただ生きているだけで金をボトボト垂れ流す

燃費の悪い車みたいなものだ

『金がかかる』なんて、今に始まった事ではない

生まれた時から…否、生まれる前から金はかかっているんだわ



その全てを賄っていたのは、誰でもない親さ



『その義務がある』?

それは傲慢な意見ではないだろうか?

勿論、義務はある、責任もある

だけど、逃げ出すのは簡単だ

払わなければいい、通わさなければいい、食わさなければいい



だけど、本当にそう実行する親はそうはいない

身を削る、それと引き換えにして子供は育っていく



“生活”がかかっていなければ、もっと自由に振舞えただろう

“養育費”が無ければ、もっと自分の事に費やせただろう

時間も、金も、労力も、それら全てを注ぎ込んだ結果が

今の自分にある、俺はそう思っている



俺は多分、恵まれた家庭で育ったのだろう

何も裕福だったとは言わない

親父は高卒、母親は夜間短大出

学歴社会バリバリだった当時では、人に自慢できるものではない

実情は生活する上では然程の苦労は無いが、贅沢するほど金は無い程度



そんな環境でも、俺や姉は人並みに稽古事をやらせてもらえた

大学にだって二人とも行かせてもらった



その裏では、母は夢だった保母を辞め、より高収入な仕事に移った

父は病気で倒れて以来、肩身の狭い思いをしながらも職場にしがみついた



まとわりつく責任、求められる費用

それらを背に受けながら、犠牲を伴ってでも育ててくれた親

俺は、親に感謝しています

そして、だからこそ、そういった気持ちが無いのは

『子供の傲慢』だと思っています



まさに“無償の愛”

それを受ける事が出来たから、俺は恵まれた家庭で育ったと言える








最近、よく思うことは『早く自立をしたい』という事

『いつまでも俺なんかに金をかけないで、自分たちの人生の為に

 稼いだ金を使って欲しい』そう思っています

学生身分でありながら、矛盾した事を言っているのは分かっている

ただ、出来たら、今度は俺がそれを返す番だ

その為にも身に付けておきたい、大学に通うのはその為








俺には、彼等に対し、何が出来るのだろうか?



そう思う時ほど、受けた“愛”の大きさを知る

それを実感する時、『ああ、自分は独りではなかった』そう思える



幼い頃、俺は、ある意味で“愛”を渇望した



小さな頃から悪ガキだった俺はいつも大人達から叱られていた

その振る舞いから、同級生の親達から白い目を向けられていた

小学校の時の担任だったある先生からは

『この子は将来、必ず不良になる』と親に言われた

甘えん坊だった俺は、認められ優しくしてもらえない事にひどく傷付いた



俺とは逆に、姉は周りの人々を笑顔にしていた

中学の時、家族の輪に姉が加わる事で、親達が笑顔になることに気付き

自分ではそれが出来ない事を悟り寂しくなった

親戚の中でただ一人の女の子だった姉は、皆から可愛がられていた

俺は余るほどいる男の子、それも末孫、相手にはしてもらえなかった



正直な話し、当時の俺は姉を嫉んだ、

相手にしてくれない親戚を恨んだ

姉ばかり可愛がる親を嫌った



俺は愛されていない…そんな事を幼心に抱いていた

事実、いつか俺は捨てられるのではないかとビクビクしていた記憶がある

数年振りに家族で出かけた旅行先で…

家族で出かけたデパートで…

「気付いたら、俺の手を繋いでいた親の手が無くなっているのではないか」

寂しく、寂しく、ただ手を必死に繋いでいた俺



「だけど、それは違うよ」、あの頃の俺にそう言ってやりたい

この頃、実家に帰った時は、親とその頃の話をする

俺がそんな感情を抱いていたという事を話すと

母親はさも「心外だ」、という顔をする

そんな顔を見ると、バカな事を考えていたのだなと苦笑する



「生まれてきてくれただけで、恩返しになっている」

「何も成さなくてもいい…、ただ健康でいてくれれば」

「何もしてなくなど無い、ちゃんと育ってくれている」



母親の、こんな照れくさい言葉、

だけど、この言葉を聞いて、親心の深さを感じる



ああ、俺は幸せだ



前回の帰郷、二人で飯を食っている時、親父が言っていた

「お前も子供を持てば分かる、親心はそういうものなんだよ

 感謝する気持ちがあるなら、今度は自分の子供に

 その愛情を注いでやれ」



元暴力親父で喋り出すと止まらないウチの親父

小さい頃、いつか見返してやると敵意を向けていた親父

高校時代、体力で勝るようになり、見下していた親父

ガンで倒れ、手術後、喋る事すら出来なかった親父

手術で体力を奪われ、趣味を失った親父

そんな身体で、それでも身を呈して俺達家族を支えてくれた親父



ああ、俺はまだアナタには敵わない



『大人と子供の差』が何であるのか、まだ分からない

分からないが、自分の親の姿を見ていると、思うことが一つ



「俺はまだ親ほど大人じゃない」



ココで一句



愛情に 包まれていたからこそ 今がある



つまらない文を長々と…



御粗末です

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