僕は中学生の頃からタバコを吸って、マージャンをして、高校になると酒も
飲み始めて、けっして真面目な良い子ではなかった。
・・・でも、万引きをしたことはなかった。
中学生当時、周りに居た友達には優等生タイプがほとんどいなかった。
ある程度の一線は超えない奴らばっかだったが、それでも一般的に犯罪とよ
ばれる行動を起こす奴らばかりだった。
万引きにおいてもそうだ。
犯罪・・・それは分かっている。でも、平気でやる。そういうカンジだっ
た。
そして、そういう奴らを僕は別に軽蔑していなかった。
自分はしないけれど、したい奴はすればいい。そんなスタイルを保ってい
た。万引きをする奴なんかといっしょにいたくない。・・・そんなことは
一度も思ったことが無かった。
だが、ある日友人Kが万引きをしたことを知ったとき僕はキレた。
友人Kを呼び出して、散々にけなした。
「おまえだけは他の連中とは違うと思っていたのに。」
「なんで万引きなんて犯罪をしたんだ。」
「おまえはサイテーだよ。ホントに。」
Kはうつむいたままだった。全く反論しなかった・・・。
僕は、万引きをしたことが無かった。
そのことは、僕にとって当時最大のコンプレックスだったのだ。
実は万引きをする度胸がなかったのだ。怖かったのだ。
うわべは強がって口だけで偉そうに息巻いている弱い奴だったのだ。
周りの連中で万引きをしたことがなかったのは僕とKだけだった。
Kは度胸とかうんぬんじゃなく、万引きは犯罪だからという理由で今まで
したことがなかった。
それが、どうしても欲しい本があって、でもそれを買うお金がなくて万引き
をしたのだ。
僕は、Kを責めた日、死ぬほど後悔した。
自分に対しての情けなさ苛立ちをどうすることもできなくて、
Kという存在にぶつけたのだ。
僕がKを責める理由は全く無く、Kが僕に罵られる理由は全く無かった。
・・・数日後、Kが僕のもとへ来て、こう言った。
「本返してきたよ。店の人に謝る勇気は無くて、ただそっと置いてきただけ
なんだけど・・・。ホントにゴメン・・・。」
Kが僕に謝る必要なんてないのに・・・。
それなのに、僕はこう言った。
「分かってくれたらそれでいいんだ。もうするなよ・・・。」
自分という存在のイヤさをことごとくカンジた出来事。
”万引き”という言葉は、それ以来さらに聞きたくない単語になった。
僕は万引きをしたことがない。
このことは堂々と言えるべきことであり、言いたくないことだ。
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