長渕剛 桜島ライブに行こう!



夜空に救われましたか? (桜島ライブ47)

2004年10月23日(土)

『夜空に救われましたか?』−桜島ライブ(47)

                 text  桜島”オール”内藤





ライブ前には、社説にまで取り上げられていました。
地元として恐れていたのは、事故、事故、事故!
群集心理、フェリー輸送などが懸念材料として述べられています。
心配した甲斐あって、無事ライブが終わりました。


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ニ部三部間・休憩時間 その2



僕はどうしても理解できなかった。
どうして、どうして、
いったいどんな事情があって、
この申し分ないブロックを離れることができるのか・・・

この、どデカイ桜島の特設会場。
Kブロックまである、この会場。
A・B・C・D・E・F・G・H・I・J・K。
BからKまでの、ざっと7万人が、
どんなにこのAブロックだったら・・・と思ったことか。

さらに言うなら、Aブロックといっても、右から左まで、
声も届かないほど広いのです。
その広いAブロックの中で、A−5ブロックは、
正真証明、ステージ前なのです。
ステージ正面は、A−4とA−5の2ブロックだけなのです。

さらに、さらに言うなら、
そのA−5ブロックの中でも、僕らのいた辺りは、
もっともA−4ブロック寄りでした。
それはどういうことかというと、
真っ直ぐに、正面を向くと、剛の固定マイクスタンドが、
ほぼ真正面にある、という意味です。

そんな、これ以上望むべくもない、
超VIPな場所から、
信じられないことに荷物をまとめて出て行く人たちがいたのです。

これから、第3部が始まろうとしているというのに・・・
これから、『STAY DREAM』が歌われるというのに・・・
これから、『桜島』が歌われるというのに・・・
これから、『何の矛盾もない』が歌われるというのに・・・
これから、『Captain of the Ship』が歌われるかもしれないのに・・・

いったい、どんな理由で・・・
いったい、どんな気持ちで・・・

到底、僕には理解できませんでした。

「なんで? ねえ、なんで?」

僕は友人に問い掛けました。

「出口付近で見てるんじゃないのかなあ。
 まさか本当に帰りはしないと思うけど・・・」

混雑を避けるために、後ろに移動しておくのだと、
友人は言っているのです。
そんな友人の予想を聴いても、僕には到底理解はできませんでした。

混雑を避けるため?
そんなことのために、この特等席を出るなんて、
少なくとも、僕には考えられない。
混雑を避けることの快適さと、このライブの最後を間近で見届けること。
この二つを天秤にかけられる?
比べるのもバカバカしい!

なんと、僕の前にいた男女も、荷物を片付け始めていました。
これまで窮屈だった、僕らの場所の周りには、
いくら激しく踊っても、いくら飛び跳ねても、
誰にも迷惑がかからないような空間ができていました。

身を寄せ合うようにしていた僕らは、
ちょっとお互いに距離を取って、足を伸ばして座りました。

僕はたまらなくなって、
今まさにブロック出口へと向かおうとしている二人に、
言葉をかけました。

「最後、見ないんですか?」

男性の方が、うつむき加減で答えました。

「7時くらいには、絶対、バスに戻らないと、
 飛行機、間に合わないんですよ・・・。
 Aブロック、いつ退場できるかわからないし・・・。」

僕には、何も言えませんでした。
やっとのことで、一言、言いました。

「残念ですね。」

「ええ、残念です・・・後ろで見ます。」

そう言って、二人で出口に向かって行きました。

広々とした空間が、なんとも寂しく感じました。
これまで、特に会話は交さなくとも、
同じ場所でライブを盛り上げてきた観客たちが、
ひとり、またひとりと、去って行きました。

やりきれない表情の僕を見てか、
友人が声をかけてきました。

「仕方ないよね〜。
 飛行機に遅れるわけにはいかないし・・・」

スカイマークエアラインの22日、東京への帰りの便を、
ネットでチェックしたことがありました。
午前中でも、予約で一杯になりそうな便がありました。
確かに、そのような便を予約していた人は、
終了と同時にダッシュで帰らなければ間に合わないかもしれません。

東京からはまだ便があるほうのようで、
もっと飛行機を抑えるのが大変だった地域もあったはず。
そう考えると、ライブ直後にダッシュしなければ
間に合わない便を予約するしか術がなかった。
それも理解できました、頭では・・・。

反感を買うことを承知で、
このとき僕が思っていたことをそのまま書きます。

飛行機に遅れたからって、なんだっていうのか。
仮に、飛行機に遅れて、今日、帰れなかったとしても、
仕事に行けなくなったとしても、それがなんだというのか。
責任があるというのもわかるけれど、
一日くらい休んだところで、何がどうなるというのか。

僕は、そう思っていました。

事実、僕がこの日、ギリギリの飛行機を待っていたとしても、
おそらく、ライブの方を取ったはず。
仕事に間に合わなくなったとしたら、

「すみません。飛行機に乗れませんでした。
 まだ鹿児島ですから、今日は会社に行けません。」

と電話していたと思います。
責任の大切さを自覚していると共に、
組織にとって、ほんとうにいなければ困るという人は、
ほとんどひとりもいないのだ、ということも、
事実として知っているからです。

それならば、僕は桜島ライブを迷うことなく取る!
と思っていました。

後日、いろんな人が、いろんな事情で、
いろんな無理をして、桜島にやってきていたことを知って、
僕のこのときの考えが、必ずしも正しくはないことを、
はっきりと自覚しています。

例えば、障害で体力がないために、
あらかじめ、最後までライブを見ることができないと、
わかっていたにも関わらず、やってきていた観客もいました。

しかし、あのときの僕は、ただただ、残念で、
なんだか悲しい気持ちで一杯になっていました。
自分には知り得ない、それぞれの事情で、
後ろ髪を引かれる思いで、それぞれのブロックをあとにする観客たち。
彼らの気持ちを理解する想像力や度量は失われていました。

(一生、忘れられない、素晴らしい思い出。
 作るチャンスなんて、そうそうあるもんじゃないよ。)

やりきれない思いを抱えながら、
僕は広々とした僕らの場所に寝転び、
大きく背伸びをしてみました。
桜島の夜空が吸い込まれそうな程に、広く、大きく、
広がっていました。

「おお・・・」

思わず、声を漏らしてしまうような、夜空でした。
僕の体は吸い込まれずとも、
ネガティブな気持ちが、スーッと吸い込まれて行きました。
悶々とした思いは、消化はしませんでしたが、
なにごともなかったように忘れた気分になりました。
またしても、桜島に救われた・・・
そう、思いました。

桜島の夜空をながめながら、
最後の一個のアンパンをかじりました。

「このまま眠ったら、気持ちいいだろうなあ」

友人は何もいわずに目を閉じて座っていました。

思えば、桜島の夜空をじっくりと眺める、最後のチャンスでした。
ちっぽけな自分と、大きな夜空。
ちっぽけな自分と、大きな長渕剛。
75,000分の1に過ぎない自分と、大きな、大きな、一等星。

いろんな考えがぐるぐると渦を巻きながら、
桜島の真っ暗な空に溶けていきました。

休憩に入って、50分ほどが過ぎたところでした。
BGMの音声が止まりました。

「よおおーっし!」

僕はムクッと置きあがり、
ミネラルウォーターの水ををぐいっと飲み込みました。

いよいよ、最後の力を振り絞る時が迫っていました。
どこからともなく沸き起こるツヨシコール。
眠りから再び目を覚ます桜島。

僕は、マフラータオルで胴体をぐっと絞り上げ、結びました。
泣いても、笑っても、これで最後だ。
大きく深呼吸をして、天を仰ぎました。

花びらの色が白か黒かのどっちかならば、
なあなあのラストなど、ないはずだ。
まあまあのラストなど、ないはずだ。
白か、黒か、はっきりと、どっちかなんだ。

ライブ開始のときのような、
力強いツヨシコールを叫びながら、
万感の思いを背に、剛の登場を待ちました。



続く



<次回予告>
運命の第3部の幕開けは、勢い重視の選曲。
身に覚えがあってもなくても、懺悔する75,000人。
歌の世界に身を投影する癖が災いして、
聴く度に、いつも困ってしまう・・・あの曲だ。

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