長渕剛 桜島ライブに行こう!



生まれてよかったと思いますか? (桜島ライブ42)

2004年10月16日(土)

『生まれてよかったと思いますか?』−桜島ライブ(42)

                 text  桜島”オール”内藤





剛の写真集「人間」の表紙は、剛のお母さん。
何曲もの歌が、この方のために作られました。


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M-29 コオロギの唄  −アルバム『空 -SORA-』(2001)−



ゆうに30分は、
センターステージでの演奏が続いていました。
時刻も3時を回っていました。

ふと、僕は、
終演予定時刻が5時半だったことを思い出しました。
開演が送れたから、6時までやったとしても、
あと、3時間もないんだ・・・

僕は初めて、このライブの終わりを意識しました。
ぼんやりと、しかし、確かに、
僕の胸には動揺が走ったのを覚えています。

(あと2時間もすれば、陽が登る・・・)

遠い遠いセンターステージは、
やけに静まり返っているように見えました。
その静寂を破るように、
剛の声が、突然、スピーカーから流れました。


かあちゃんが昨日・・・
死にました
夏の暑い 暑い 午後でした
空いっぱい蝉たちが しきりに鳴いていました
群れにまぎれて 僕も泣きました



生まれて良かった!『コオロギの唄』!

剛のお母さんの歌。
2000年の夏に亡くなった、剛のお母さん。
何度も、剛の歌に出てきた、剛のお母さん。
写真集『人間』の表紙に顔を出した、剛のお母さん。
剛は、やはり、この桜島で、
お母さんのための歌を、歌いました。

僕と友人は、ライブの前日、
『MOTHER』、『真っすぐな瞳のかあちゃん』、
そして『コオロギの唄』といった、
剛のお母さんをテーマにした歌の中で、
桜島で演奏されるのはどれかと予想して楽しんでいました。
僕は全部やるんじゃないかと楽観的に考え、
友人は、どれか一曲と考えて、
『MOTHER』だろうと言っていました。

剛が『コオロギの唄』を歌い出すと、

「コオロギだったか・・・」

友人が、何の気なしに、つぶやきました。

剛は、この曲ではギターを弾かずに、
メインステージにいるメンバーのピアノに合わせて、
じっくりと、大切に、『コオロギの唄』を歌っていました。


母ちゃんが 焼き場に放り出される
その前に
でっかい背中が ついに 崩れ落ちました
そうです 僕の親父は
最後の 最後の お別れを
おふくろのくちびるに告げました



桜島全体が、息をひそめて、
剛を見守っていました。
この曲に限っては、
僕も歌を口ずさむこともせずに、
ただ、黙って、直立不動のまま聴いていました。

スクリーンに映る剛は、
ほとんど客席に視線を落としていないように見えました。
僕らは僕らで、自分の意思で一歩下がって、
剛から距離を取っていたような感覚でした。

歌う剛に、僕らが立ち入れない何かを感じていました。
うまく言えないのですが、
僕は、厳かな儀式に立ち会っているような気がしていました。


息絶えるまでの わずかなぬくもりでした
僕は 母ちゃんの右手を 握り締めました
生きぬく力をふりしぼり 僕に向けてひとつだけ
母ちゃんは 息をして みせてくれました



会場の誰もが、
口をつむんでいたわけではありませんでした。
静かなことをいいことに、歌の間中、
最初から最後まで、ずっとお喋りしている女の人も、
僕の近くにはいました。

どんなに厳かな曲であろうとも、
どんなに剛が心をこめて歌おうとも、
地味な歌はつまらない、と思う人は、
ここ桜島にもいるのです。

それに気づいていた僕でしたが、
集中力をそがれることはありませんでした。
それだけ、このときの剛の歌唱には、
胸に迫るものがありました。

やがて、コーラスの歌声も加わり、
『コオロギの唄』はさらに厚みを増して行きました。
まるで、どんどん大きな花束になって、
天国に向けて差し出されているようでした。


生まれてよかったと
僕は初めて 思いました
そして この人が 
僕を生んでくれたんだなって
なぜか当たり前のことを考えていました



僕はこのとき、
この歌をライブで聴くのは、これが最後になる・・・
なぜか、そんな気がしていました。

歌にもいろいろあって、
普遍的な歌もあれば、あっという間に忘れられて行く歌もあり、
いい歌であったとしても、
あるときが来ると、役目を終えていく歌もあります。

好き勝手に予想しているときには、
まったく気がつかなかったことですが、
『MOTHER』や『真っすぐな瞳のかあちゃん』は、
既に役目を終えている歌でした。
そして、『コオロギの唄』も、目の前で、
静かに、その役割を終えようとしていました。


WOW MOTHER!
WOW MOTHER!
WOW MOTHER!



間違いなく、天空に向けて、
呼びかけている剛の姿がありました。
故郷での記念碑的なライブ。
4年も前に亡くなったお母さんですが、
ここでやる以上、ゼッタイに忘れることができない存在。
この桜島で最後のお別れをやるのだと、
剛は決めていたのだと思います。

十分満足のいくお別れができたのでしょう。
剛はスッキリと晴れやかな表情を見せて、
はしゃいだような声で言いました。


「天国のおふくろも、喜んでるよ!
 みんな、ありがとう、って言ってるよ!」



剛、天国へ届く歌、立派でした。

もう、母の死をライブで振り返ることもないでしょう。

さようなら、『コオロギの唄』。

桜島で聴けて本当によかった。

そして、天国の、剛のお母さん、

剛を生んでくれてありがとう・・・。



続く



<次回予告>
さらば、センターステージよ!
歌の余韻と感動を残して、侍はメインステージへ向かう。
お侍さま、おかえりでござる!(from Aブロック一同)

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