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いつのまにかいせかい。 | 2008年07月13日(日) |
固く手を握り合い出来る限り身を寄せ合っていた彼女たちは、しんと静まり返って物音ひとつしない気配にきつく瞑っていた目をおそるおそる開いた。 「……」 「……お、おねえちゃん」 唖然として立ち尽くす朝鳥に、妹の暮羽が怯えたように抱きついた。その肩を軽く叩いて落ち着かせながら、朝鳥は止まっていた思考を回転させる。 白亜の柱が円を描くように彼女たちを取り巻いていた。それは放射状に規則正しく幾つ者輪を広げており、人工的に作られた森の中に放り出されたような錯覚を覚える。柱の幾つかには高い位置に炎が灯されており、うす暗い空間はどこまでも続いているかのように思われた。 「えーと……」 一度目を閉じ、起きろ起きろと念じつつ十数えてからまた目を開ける。けれども先ほどまで確かにいたはずの自宅のリビングから程遠い、夢としか思えないような白い柱に取り囲まれた状況は変わらなかった。 「こういうときってさあ、どういう反応するのが正しいと思う?」 「……とりあえず慌てるんじゃないのかな」 動揺を見せず、首を傾げてのんびりと問う姉に、暮羽はほっとしたように腕を緩めて隣に立った。体を離した代わりにその手をきゅっと掴む。 「小説やゲームだと大体この辺で導入役が出てくるものだけどねー」 「お姉ちゃん、夢か何かと思ってるでしょ」 妹の腕を引いて一番手前の輪を形作る柱のひとつに近づく姉に、ぷうと妹が頬を膨らませた。突発的な事態には分かりやすく動揺するが、勝気な暮羽はそこからの回復も早い。 「だって私と暮羽でそろって同じ夢見てるとしか思えないでしょう、これ。あとはついにゲームの中の世界に意識を放り込む技術が開発されたとか」 「そんな技術の実験台にされるような理由はどこにもないと思うんだけど」 「あとはそうだなー……宇宙人にさらわれたとか」 一抱えほどもありそうな太い柱は社会の教科書でよく見かける古代ギリシアの神殿になんとなく似ている。天井の高さは低く、自宅のそれとさほど変わらないようだった。 「お姉ちゃんSF好きだっけ?」 「嫌いじゃないけどどっちかというとファンタジー派。でもさー、現代日本に少女小説みたいな魔法が現実に持ち込まれる可能性って宇宙人の襲来とか意識をコンピュータの中にシフトさせるような技術が開発された可能性よりよっぽど低いっていうかありえないと思うのよね」 「小説ならこの後、巫女とか英雄とかに祭り上げられたりするのよね」 空いた手でぺたぺたと柱に触れる。ひんやりとして心地良い。泰然自若とした姉にだいぶ安心したのか笑みすら見せて暮羽が言う。 「最近は意味なく呼ばれたりするパターンも見るけどね。特に使命もなく、でも帰れなくてどうすんのよ!みたいな。王子さまとかじゃなくて普通のひとに拾われて、異世界で自分の生活作り上げてく話。ああいうパターン結構好き」 「戦わなくちゃいけないのよりそっちの方がいいなぁ。なんかこう、大仰なのって柄じゃないと思う。少なくとも私には」 「暮羽ならいけるでしょう。問題は私のほうよ。体力ないインドアだし現代日本以外で生きてける気がしないわ」 更に白亜の森の奥へと一歩足を踏み入れた瞬間、うす暗い空間が眩い光に包まれる。 反射的に目を瞑り、互いの体を抱き寄せてしゃがみこむ。 瞼をとおしても分かる激しい光が止むのを待ち、朝鳥はそっと目を開けた。 柱に備えられた明かりは消え失せ、その代わりに柱そのものが光を発して輝いている。遠くから蜃気楼のように揺れる人影が幾つも姿を現わす。 「暮羽」 「なに、おねえちゃん」 顔を上げ、朝鳥の視線の先を追った暮羽が嫌そうに眉をひそめる。 「もしもこれが小説だとしたら、とりあえず普通のひとに拾われて異世界暮らしを体験するって話にはならなさそうよ」 ぞろぞろとやってきた影は薄い灰色のローブに身を包んでおり、その顔はうかがい知れない。彼らの動きは淡々として感情が見えない上に統率が取れており、敵意があるのかないのか判断することもできなかった。 逃げるべきか大人しく捕まるべきか悩んだ朝鳥は結局そこから動かずに灰色の怪しい集団と対峙することにした。 ****** 考えてる話の別パターン導入。 女子高生異世界召喚はやはりよい。 異世界に吹っ飛ばされたときの反応ってどういうのが一番しっくりくるのかなーと色々試しています。性格にもよるだろうけれど。 |