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光の平原。 | 2007年03月15日(木) |
真白い雪に刻まれる足跡はひとり分。 振り返っても誰もいない。 遥か遠く陽炎のように揺らめき歪む、緑の芝の美しい庭園に目を細めた。 それを正しく幻と認識する、感情に脅かされることのない冷徹な意識では、凍える指先を伸ばすことは出来なかった。 前を見る。身を切るような冷たい風に長い髪が踊り、一瞬だけ、駆け上るように蒼天に広がった。 もしも飛ぶことができたなら、この雪原を越えることも容易だろうかと夢想する心はけれど、歩き始めた両足を止めるにはまだ淡い。 夢に生きるのではなく現実を拓けと、自分にも他人にも厳しかった彼はことあるごとにそう口にしていた。 その叱咤の声は今も耳の奥で響いている。 陽光を弾く雪は眩い。 温度のない光に満ちた白い平原の向こうに、蒼く霞み聳え立つ楼閣を見た。 |