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No-Mark Stall *




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目的。 | 2005年06月12日(日)
夕食の雑炊をかき込んでいたアーウィーは、コーネリアが自分の膝の上に乗せているものにふと目を留めた。
傍目こそただの布をきっちりと巻きつけた棒切れだが、浮き上がった輪郭も、昼間拾い上げた感触もそれが剣だと彼に告げていた。
「……姉ちゃん、それ本当に大事なんだなー。こんなときまで持ってきて」
素直に感心した調子の声に、コーネリアは多少苦さの混じる笑顔を浮かべた。
「これが近くに無いと落ち着かなくて。早く本人に届けられると良いのだけど」
「それ届け物だったの?」
器と木製の匙を片手に纏め、空いた方の手でコーネリアは慈しむようにその輪郭をなぞる。
「届け物というよりは、忘れ物、かしら」
「何処まで届けに行かれるつもりで?」
「正確に何処にいるのかは分からないけど、まずは王都に行こうと思って。いるとしたらまずはそこだから」
アーウィーが咀嚼したものを呑み込んで、首を傾げた。
「そのひと、姉ちゃんの恋人?」
ごふっとグレーハーヴズが喉に食べ物を詰まらせたような変な呻き声を上げ、コーネリアはぽかんとして少年を見つめた。
「……こいびと?」
「うん。そうじゃないんだったら、家族の誰か?」
家族では無いと彼女は首を振る。
「血は全然繋がってないけど、でもそうね、同じ家で暮らしてたという意味なら家族かしら。それもちょっと違う気がするけど」
うーんうーんとしきりに唸って考え込む彼女の脇で、ひそひそと竜騎士のふたりが言葉を交わす。
「……恋人でも家族でもないのに一緒に住んでた男ってどんな関係があると思う、グレーハーヴズ」
「知るか。第一お前が男と決め付ける根拠は何だ根拠は」
「だってあれ多分剣だろ? 女が持つようなもんじゃねえよ」
それもそうだな、とグレーハーヴズは頷いて空になった自分の器に雑炊をよそう。
「――しかし、コーネリア嬢。まずは王都と仰いましたが、これからどうやってそこまで行かれるつもりです?」
王都は此処から馬を飛ばしても一ヶ月近くかかる。見たところ徒歩の彼女が辿り着くのはいつの日になることか。
コーネリアはきょとんとして目を瞬かせた。
「……歩いて?」
「無茶です」
「姉ちゃんそれは無理。よっぽどの健脚でも無理。姉ちゃんには絶対無理」
そんなこと言われても、とコーネリアは唇を尖らせる。
「だってわたしそれ以外に手段ないし」
男ふたりは肩を落として大仰な溜息をついた。
「……誰だよ、こんな頼りない姉ちゃん放ってった野郎。出てきて一発殴らせろ」
「全くだ。――待っていようとはお考えにならなかったんですか?」
グレーハーヴズの質問に、彼女は酷く透明な笑みを浮かべた。

「待てなかったんです。帰ってくるなんて保証はなかったから、会いたいと思ったらわたしから会いに行くしかないんです」
「……そいつ、姉ちゃんに何も言わずに出てったの?」
ぱちり、と焚火の爆ぜる音が静かな夜によく響く。
奇妙に静まり返った場に、ぽかりとアーウィーの言葉が浮いた。
穏やかな笑みを浮かべた娘は、こくりと首を縦に振る。
「ええ。戻ってくるとも、さよならとも、何も言われなかったから、中途半端なままなの。そんな状態じゃ待ってなんていられないでしょう?」
ごちそうさま、おやすみなさい、と軽やかに礼を述べて、割り当てられた天幕に戻る後姿を見送りながら、ふたりはしばらく無言で雑炊を啜った。

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ボツった原稿から抜粋。
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