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2005年09月12日(月)
カマス日和

いしいしんじの『ポーの話』は、これまでの見方をちょっと変えざるを得ない本だった。今まで、いしいしんじの作品は、子どもが読んでも面白い話、わかる話だと思っていたが、今回の長編は、一見これまでと変わらないようにも見えるが、行間を読むと結構深い話で、これは完全に大人向けではないかと思える。

しかも、その行間というか何と言うか、文字にせずに暗に物事を言及する書き方とか、話の区切り方とかが、格段に上手くなっているように思える。スタインベックなみだ。というのは、ちょっと褒めすぎか?

例の、わけのわからない不思議な記述もますます冴えており、「今日はカマス日和ですね」なんて、何なのよ?と思いながらも、変に納得してしまう。サンマ日和とか、マグロ日和とかにせず、「カマス日和」とするあたりが心憎い。

それと、いつの時代ともどこの国ともわからない設定ではあるものの、けして昔の話ではないのに、なぜか懐かしい。かといって、現代の若者っぽい言葉遣いがないのも喜ばしい。とてもていねいに書かれている感じがするので、読むほうも、一気読みができない。

今のところ、いしいしんじは善しか描いていないのだが(それもとびきり美しい善である)、それが押し付けがましくないのも好感が持てるし、善を描くことが彼の作品の特徴なのだろうと思う。どんなに厳しい状況で、とても貧乏でも、自分の身の上を淡々と生き、無意識のうちに人を思いやっている彼の主人公たちが、私は全部好きである。

だが彼の作品は、どれもけして明るい作品ではない。どこかに「自己犠牲」の精神があるためか、なにやら哀感が漂う。しかし、どの作品にも必ず救いがあり、希望も見える。ただひたすら暗いわけではないのだ。

今日もカマス日和です。


〓〓〓 BOOK

◆読了した本

『ポーの話』/いしい しんじ (著)
単行本: 435 p ; サイズ(cm): 20
出版社: 新潮社 ; ISBN: 4104363014 ; (2005/05/28)
出版社 / 著者からの内容紹介
無数の橋が架かる泥の川。その流れにのせて運ばれる少年ポーの物語。いしいしんじは、とうとうこんな高みにまで到達してしまった!待望の書下ろし長篇。


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