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2003年06月12日(木)
原文で味わう新しいアメリカの短編小説(7)

「原文で味わう新しいアメリカの短編小説」講座第七回
テキスト:「White Angel」/Michael Cunningham (1990)

マイケル・カニンガムは、現在公開中の映画『めぐりあう時間たち』の原作者で、1952年、オハイオ州シンシナティ生まれ。スタンフォード大学在学中から作家をめざし、1984年『Golden States』でデビュー。1999年、映画の原作『The Hours』で、ピューリッツァ賞、ペン/フォークナー賞を受賞。

カニンガムはゲイであり、自分の作品をゲイ文学にカテゴライズされることには断固反対するが、「エイズの世界的な脅威や、政府の無策ぶり、抑圧と倫理規制の強化などを考えるにつけ、自分のセクシュアリティを隠したり、それが僕の人生や作品に与えた影響を無視するふりをしたりすることはできないと思った」と語っている。(『この世の果ての家』解説より)

カニンガムの生まれたオハイオ州のあたりは中西部(Mid West)と呼ばれ、アメリカ経済の中心であるニューヨークと、新しい文化の起こるロサンゼルスを行き来していると、飛行機で通過されてしまう土地。そこに住んでいる人たちは、中西部は「文化的不毛地帯」であると思っており、ニューヨークやロサンゼルスに憧れて、外に出て行きたがる(一番“hip”なのがLAで次がNY。他はなし!)。自分たちのいるところには何もないという独特の虚無感を持っている土地。

今日のテキストは数日前の日記にも書いたが、長編『Home at the End of the World』「一部」で、この「White Angel」が短編として先に世に出て、話題を集めた。

舞台は60年代のクリーブランド。9歳のボビーと16歳のカールトンの兄弟は、独特の虚無感を持つ中西部のオハイオで、すでに崩壊を始めている家庭の中にあり、自分たちの未来のWoodstock Nation(Woodstockに集まったような人々で新しい国を作ろうというもの)を信じて夢見ていた。ある日突然、悲惨なアクシデントが起こり、カールトンが逝ってしまう。セックスやドラッグにふける兄弟の姿とは裏腹に、繊細な少年の心の描写が際立っている。

兄カールトンの死の場面で、死にゆくカールトンを腕に抱いていたガールフレンドの気持ちに触れたとき、なんて辛い経験をしてしまったのだろう!と思うといたたまれなくて、思わず涙が出た。ほとばしる血潮とともに、命が流れ出ていく様が、スローモーションのように描かれており、ここで流れるボブ・ディランの「Just Like A Woman」のメロディに、再び泣かされた(南さんが作品中に出てくるThe Doorsの「Strange Days」とBob Dylanの「Just Like A Woman」のCDをかけてくれた)。

しかし、この「White Angel」は短編だからこそよかったのかもしれない。長編のほうの『この世の果ての家』を読んだときにも、この部分はかなりぐぐっと来たが、長編のほうは前後の繋がりも意識の中にあるし、おそらく短編だけで読んだほうが鮮烈だろうと思う。個人的にも、短編だからこそいいと思える作品は珍しい。

Woodstock─1969年8月、NY郊外で行われたロック・コンサート
Yasgur's Farm─コンサートの会場になった農場
ゲイ・フィクションの変遷

おまけ─卓球界のマイケル・カニンガム (^^;


◆次回の課題
「Along the Frontage Road」/Michael Chabon


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