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2003年03月15日(土)
高級娼婦の読む本

今読んでいるトレイシー・クワンの『マンハッタン・コールガールの日記』には、主人公である高級娼婦ナンシーの愛読書の描写がある。その部分を読んだとき、あっとびっくり!私が読もうと思って、最近買った本の作家ばかりなのだ。作品名まではわからないけど、急に親近感がわいてきた。私が買ったのは、以下の通り。

『Vanity Fair』/William Makepeace Thackeray
ああ、こんな字が小さくて、700ページ近い本を娼婦が読むのか!って、この版てわけじゃないよね。(^^;
サッカレーはディケンズの好敵手といった存在らしいので、ちょっと興味を持ったんだけど、てことはこの娼婦、ディケンズも読んでるんだろうな。

『Wives and Daughters』/Elizabeth Gaskell
ギャスケルの本なんて、ほとんど知られていないんじゃないかと思ってたのに、高級娼婦が読んでたとはね。というか、作者が読んでいたか、あるいは娼婦には似合わない本として認識していたかってところでしょう。タイトルからも想像できるように、ごくごく普通の一般の家庭の事情って感じの内容だし。

『We Were the Mulvaneys』/Joyce Carol Oates
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マルバニー一家はまさにハッピー・ファミリーだ。結婚して何十年もたつというのに、ママとパパはまだ愛し合っているし、子どもたちも、陸上競技のスター、卒業生総代、チアリーダーという具合で、2人の自慢の種だ。おまけに家があるのはハイ・ポイント・ファームと呼ばれる理想的な地区。このきわめてアメリカ的な家族の絆は硬く、揺るぎない。

ママはまた言葉を切ると、息をすばやく吸い込み、きらきらした特別の輝きで瞳をいっぱいにして、家族ひとりひとりをじっと見つめる、信じられないくらい豊かな愛情を込めてぼくたちを見る。そんなとき、ぼくの心は、母だったその女性が胸の中に指を滑り込ませて肋骨ごとくるんでくれたかのようにきゅんとなる。それは、野性の、傷ついた鳥を手の中に包みこんで慰めるみたいだった

しかし誰もが知るように、エデンの園は永遠ではない。ジョイス・キャロル・オーツの手にかかったとなればなおさらである。ありとあらゆる家族の機能不全を文字のかたちにとどめてきたこの作家は、物語を、温かな情景からあっという間に転落させるのにかけてはピカイチの腕利きである。すべてが語られすべてが終わるまでの間にレイプが起こり、娘は勘当になり、酒は浴びるように消費され、農場は失われる。これらのできごとをひとつひとつ思い起こすだけでも、マルバニー家の子孫にとっては試練だ。

彼らのひとりはこう言う。
「これはまったくつらい記憶の清算だ。まるで、自分の血管からどろどろした血のしずくを1滴1滴絞り出すようなものだから」

書き手がオーツでなかったら?このテーマはおそまつなテレビ映画のたぐいに堕していただろう。しかしこれはオーツの26作目である。なんといっても書き手は、書こうとする材料についても、その料理法についても熟知した人なのである。性格に矛盾と繊細さを秘めた人物たちを作り上げ、つくづくと観察してでき上がった物語だ。読者は彼らに感情移入せずにはいられない。彼らをやがて悲劇が打ちのめすことを知っても、それをやめられないのだ。


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