浅田農産の会長夫妻が
自殺したというニュース。自分が取り組んでいる対象、特に“企業倫理”と絡む出来事だったので非常に考えされられました。正直、死にたくなる気持ちはすごく理解できる。
自社の商品への信頼が崩壊したとき、それはもうすでに企業の死を意味しています。ある程度の大企業だったら復活に賭けることも可能だけれども、浅田農産では無理だったと思う。業種も業種だし、規模も小さすぎる。何よりも、利益の源泉である消費者の心は取り戻すことはできない。
中小企業の経営者にとって、企業とは紛れもなく自分自身であります。
今まで何人かの人に「つらい」「死にたい」「自殺したい」と打ち明けられたことがあります。私は相手にそういわれたとき話は聞くけれど慰めはしません。慰めや励しではなく、そういう時私にできるのは“現実”を話すことのみ。自殺はいけないと言う権利も義務も私には全くありません。いけないと言ったってする人はするし、やれと言ったってしない人はしません。そもそも、そう口に出すだけで誰も死んではいないし、本気で死にたがっている人はいちいち私に報告したりしません。
もしも周囲に自殺願望がある人がいましたら、「骨髄バンクに登録し、自殺実行後3時間以内に現地に救急車が来れるように連絡しておくこと。」とアドバイスしてあげて下さいまし。冷たく聞こえるかもしれませんが、これが自分は無価値だと信じる人間にとっての最後の社会貢献だと思う。少なくとも、私が自殺する場合にはそうしまする。
話が逸れているので軌道修正。比較的、経営者は自殺しやすい種族であります。統計も物語っていますし、何よりも「死にたい」と言いたくても誰にも言えない立場にいるワケで、そういう意味では経営者は常に孤独な身であります。今回の浅田農産の会長夫妻も例外ではなく、夫婦の間のみでしか死への決意、そこまでの心情の変化は共有されていなかったのでしょう。
以下、かなり個人的な意見、というか感情。このお二人の自殺はお互いが経営に関わっていたからこそなような気がした。私のようなアホがやっている我がままな経営ではなく、このお二人は“生きる・生き続ける”ために企業を経営していたのだなぁと。そう考えると、自殺という選択はひどく冷静な意思決定なような気がしてきた。さらにこの会社がやってしまった事の社会的影響を考え合わせると「何も死ななくたっていいじゃないか!」とは私には到底言うことはできない。おそらく、お二人同じ状況になったら、私も自殺するしかないと考えただろうなぁ。
この事件の詳細を知るにつれて頭に浮かんできたのは、Socialtext社のCEO、Ross Mayfieldの「企業家になるための15のアドバイス」、特にその中の13番目だった。(→数日前Blogにメモしてます。
こちら。)
この中で、Mayfield氏は13番目に“Stick to ethics.”(=倫理を貫け)をあげていたのだ。経営者ではなく、これから経営者になろうという若者へのアドバイスとして“倫理を貫け”と言える彼を私は今心から尊敬する。“利益を求めよ”という企業家は日本にも腐るほどいるけれども、“倫理を貫け”と言える人は希少であり、倫理を貫きながら利益を出せる経営者はあまりにも少ない。究極的には、以下の事実を忘れたとき、経営者は死ぬのだろう、正確には“死ぬしかない”のだろうと今日実感した。
≪利益は、個々の企業にとっても、社会にとっても必要である。しかしそれは企業や企業倫理にとって、目的ではなく条件である。企業活動や企業の意思決定にとって、原因や理由や根拠ではなく、その妥当性の判断基準となるものである。≫(by P.Fドラッカー)