きのうお会いしましたね と 暗がりのさきを指さす
覚えてはいられないので さきに言いました
暮れ方の街 屋根は正しく空を切り取り はがれた青は家路に落ちて あるく靴底に溶けていく
雲ごしに月の気配 いまはない星の名残り 主のいない名前なら なんどでも呼びかけて
あしたお会いしましたね
持ってはいかれないので と 伸ばした腕を丁寧にたたんで 今度はこちらへ 差し伸べる
音のない声 顔をなくした影と影 ゆく道のない地図を ちりちりと破いて 闇を湛えた空に撒く
いつか
いつか と
伸ばした指で
約束は ここに埋めました
いつか どこかで
いつの間にか雲は切れ のぞいた空に正しい月 名残りの星座をたどるように 正しい家路を 踏んでいく
|