ソラのミツカ
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どうでもいい話だが、小鳥の本名は珍しい。
名前はそうでもないかもしれないが(いや、でも同じ名前の人には会ったことは
ないくらいには少ないけど)、漢字とその読みが特殊である。
当て字とかではなく、ちゃんと読むのは読むらしいけど、これまで私の名前を
初読で呼べた人はいないし、100%の確率で『珍しい名前ですね』と言われる。
小鳥はこの年になるまで、自分の名前の明確な由来を知らなかった。
そりゃあ何度か尋ねたことはあったけれど、その度に
『かわいい子になるように、ってつけたのよ』(小鳥6歳)
『ぼんさん(お坊さん)に画数のいい漢字を教えてもらって、その中から選んだ』(小鳥中1)
だとか、妙に適当な返答しか返ってこなかったため、要はそう思い入れを込めた
意味があるんじゃないんだな、ということだけは理解し、以後なぁなぁにしたまま
ほったらかしといたのである。
で、今回帰省を機に改めて訊いてみたのだけれど、それは別に自分のルーツが
知りたいとかそういう意志があったわけでもなんでもなく、単に食事中の会話に
困ったための場つなぎの質問であった。
『何で私の名前は美果なの?』
『美果って漢字が気に入らないなら、これからは平仮名で書けばいいぞ』
『いやいや、そういう意味で聴いてるんじゃなくてさ、美果って漢字と読み、 特殊やん。どういう経緯でこの名前に決まったのかと思って』
『んー……』
言いよどむ父。やはりそう明確な意味はないらしい。
『お兄ちゃんが○○だから、危うくお母さんが××にしよう、って提案した、って 話は聞いた』
『ちょっと待て。それを言ったのは母さんじゃなくて、父さんよ』
『え、そうなの?』
『そう。でも母さんが、それじゃ兄ちゃんの続きみたいで可哀そうよ、って止めたの』
うちの兄は、四字熟語の上2文字から取った名である。
たとえば「誠心誠意」だとすれば、誠心で「まこと」、という具合でしょうか。
で、その流れで行くと、小鳥は誠意で「まい」とでもなってたのでしょう。
いや、そんなに可愛らしい名前ならいいけど、実際に付けられていたら小鳥は
絶対に自分の名前が嫌いだったに違いない、そういう四字熟語である。
「一心不乱」で、兄が一心で「かずし」、私が不乱で「づら」とか、そんな感じ。
『お父さーん!!』
『いや、○○っていうのはすごくいい意味じゃないか。○○××ってのは、すごく 偉大な四字熟語だから…』
『それで完結してたらいいけどさ! 実際には△△(小鳥の妹)も居るんだよ! 私とお兄ちゃんが○○××で完成してたら、△△はどーするつもりだったのよ。 末子(すえこ)だの丸子(まるこ。句点の意)とでもしたわけー!?』
『そうよ、だからあんた、母さんに感謝しなさい』
『まぁ、それはいいけどさ。じゃあ、なんで美果なわけ?』
『お前、自分の名前好かんとか?』
『いやいや、そうじゃなくてさ。珍しいやん。読みが先に決まってたの、それとも 漢字が先に決まってたの?』
『読み』
『それは、誰が決めたの?』
『父さん』
『で、なんでまた「ミツカ」?』
『※※(苗字)ミツカ、っていうのは、なんとなく響きの良かやっか』
要するに、やはり深い意味はなかったらしい。
『……へぇ。で?』
『その読みをする漢字をお坊さんにきいて、画数のいいのを選んだとさ』
『ふぅん』
『美香と美果やったら、美果の方が画数がよかったと』
『まぁ、その二つやったら美果の方が好きだけど』
『それも選んだの母さんよ。あんた母さんに感謝しなさい』
という経緯だったらしい。
30年目にして初めて知った事実であった。
姓名判断では最強だけど、やっぱり深い意味はなかったのね。
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