新聞の折込チラシに、区内の銭湯で「りんご湯をやります」というものがあった。
りんご湯に限らず、「しょうぶ湯」とか「ローズマリー湯」とかいろんなお風呂のお知らせが来るのでそれ自体は珍しくないのだが、
「行きたい!」
りんご湯という可愛い響きが娘・R(11才)のツボだったせいか、食い付いて来た。もともとスーパー銭湯や温泉が大好きなのだ。
Rは浴槽の中にりんごが大量にぷかぷか浮いているのを想像してるのだろうが、実際はおそらく申し訳程度だろう。しかしRがどこか行きたいと言うのは珍しい。息子・タク(9才)はしょっちゅう秋葉原のポケモンカードショップに連れてけとかポケモンセンターに連れてけとか東長崎のおもちゃ屋のポケモンカードバトルイベントに連れてけとかうるさい(ポケモンカード絡みばっか)。
で、ちょくちょく連れて行ってるので、Rの言うことも聞いてやらないとかわいそうな気がして行くことに決めた。
隣町のとある銭湯。ここは今年すんごいリニューアルをしてオシャレで綺麗になったとのうわさを聞いていたのでチャリで来た。
お金を払おうとしたら今日は子供はタダだと言われ、ラッキー。嫁と僕の分だけ払う。そして僕とタク、嫁とRに別れた。さすがにもうRと一緒に銭湯には入れない。家ではまだ一緒だけど。近所のRの同級生のお父さんは
「ハタチまで娘と一緒に入る約束をしている」
って言ってたけど。
タクと男湯に入ってみると、床や洗い場は黒、壁や天井は白のモノトーン調で、本当にオシャレで綺麗な銭湯だった。古き良き時代の富士山などの壁画はなく、その代りにプロジェクションマッピングによる光の模様が壁に映し出されていた。
ひととおり体を洗ってから、タクはまさに水を得た魚のようにじゃぶじゃぶと入っていった。僕もゆっくりと湯に浸かと、かすかにりんごの香りが漂ってきた。やはり申し訳程度にしか入っていなかったがこれで充分だ。
「パパ、邪魔」
泳いできたタクがぶつかってきた。
「お前が邪魔だ!泳ぐな!」
はしゃいでうっかり溺れたりすると、そのまま古代ローマのお風呂にタイムスリップするぞ!、とテンションの高いタクを叱りつつ、りんご湯の他に泡風呂、サウナ、露天風呂などに入ってみた。露天は天然温泉だとのことで茶色のお湯だ。
のぼせる寸前まで堪能し、風呂から出て来ると、嫁たちはまだいなかったのでロビーのソファに座り、テレビを見ながら待つ。
「パパ、フルーツ牛乳かコーヒー牛乳飲みたいよ」
タクは自販機を指差した。最新のオシャレ銭湯になっても風呂上がりのフルーツ牛乳は不変なのだ。
「あーそうだね。いいよ。飲もう」
買ってやろうとすると
「ママとRちゃんが戻ってからみんなで飲みたい」
と言うので待つことにした。しかしなかなか戻って来ない。
「ねー、まーだー?」
タクがだんだん待ちきれなくなってきた。
「女のトイレと風呂と買い物と立ち話と電話は長いのだ。よく覚えとけ」
「まーだー?」
「だからタクだけ先に牛乳飲めばいいだろう」
「やだ」
そんなやりとりをしていて、嫁とRは20分ぐらい遅れて戻って来た。
「楽しかった?」
「うん。きれいだった」
言い出しっぺのRは満足したようだった。で、タク念願の牛乳で乾杯。
「女湯にも露天の温泉あった?」
「あったよー」
男湯も女湯もそんなに変わりはないみたいね…などと話していると、
「温泉に入るとどんな効き目があるの?」
とタク。そういえば露天風呂のすぐ脇の壁あたりに何か書いてあったけど特に読まずにスルーしてしまった。
「えーと、柔道が強くなるかもよ」
「うそだ!」
入浴剛を制す。なんちて。
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今日もアリガトウゴザイマシタ。