「Rを幼稚園の体験教室に行かせます」
わが嫁が行った。娘・R(2才)はもうそんな年頃になったのかと感慨深くなった。嫁の股の間からギャースと産まれてきたのがついこないだのようである。その前に嫁の股の間にはううううと種まきをしたのもついこないだのようである。
この調子で行くとあっという間に女子中学生、女子高生へと僕が一番楽しみにしている時期になってしまうそうである。幼稚園では是非「お父さんとはずっと一緒にお風呂に入りましょう」と教えて欲しい。いや教えるべきだ。ていうか教えろ。
それで第1回目の体験教室に行った後の嫁の話が凄かった。
「ひとりだけとんでもない悪ガキがいたの。誰彼かまわず殴ったり首を絞めたりして泣かせちゃうのよ。Rはたまたまやられなかったけど」
ちっちゃなころから悪ガキで触るもの皆傷つける、ギザギザハートの子守唄のようなガキ、もといお子様がいたらしい。
「その子の親は何してたのさ」
「何も。他のママとおしゃべりしてるの。さすがに幼稚園の先生が注意したんだけど『すみません』って生返事だけで。ケロッとしたもんよ」
「Rも殴ることなんて知らないから速攻で泣かされるだろうなあ」
「そうなのよ!普通この年で知らないわよ!きっとあの親が同じ事をしてるのよ!しょっちゅう殴ったりして叱ってるに違いないわ!それで覚えたのよ」
「ろくにしつけも出来ないのに暴力を振るうダメ親だな!」
「そうだそうだ!」
余程その母子が憎かったらしく、僕もそれに釣られて興奮してしまったが、さすがにどんなダメ親でも子供の首を絞めることは考えにくい。おそらくその子供にやんちゃ盛りの兄がいる、とか考えたほうが真実に近いかもしれない。しかし他の子に暴力を振るうことを叱らない時点でダメ親であることは変わりない。
今はウチでまったりノホホンとしているRも、やがて集団生活で揉まれることも必要だろう。ただこのジャイアンのような理不尽な暴力にただ屈するのを「おおかわいそうに」と慰めるだけでいいはずはない。
「よしR。今からパパが空手を教えるぞ。パパは昔空手やってたんだよーん」
オタクな僕だが、空手をやっていたのは本当である。だたし小学6年生までである(その後オタク化)
「はい。これが中段突き。R、『えい』って言ってやってみよう」
僕が拳を突く動作をRはピョコピョコと
「えいえい!えいえい!」
と楽しそうに真似をする。なかなか筋がよい。ところが嫁がここで横槍を入れた。
「でもあなた待ってよ。それでRが他の子を殴るようになったら?」
確かにそうである。空手の正しい使い方の教え。僕は空手の「お師さん」からこう教わった。
「引かぬ媚びぬ顧みぬ」
違った。
「空手はあくまでも心と体を鍛えるものである。相手を傷つけるためのものではない。空手を使うとしたら、身を守るためだけにせよ」
というものであった。これをRに教えなければ…と考えたが、こんな小さな子に分かる訳はない。口で言って分からないなら体罰をもって教えるしかない。体罰をするとそれをまたRが覚えて他の子に暴力を…。だからといって教えないとジャイアンに…。
ああ、暴力の無限ループに陥ってしまい、訳が分からなくなった。おそらくこの問題を解けるのならば、世界の戦争もなくすことが出来よう。
「はあ…どうしたもんだか」
とりあえずティーブレイクでもするべか。
やはり空手よりカフェラテが好きである。
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