沈鬱な顔の嫁がいた。
「12月になってからパソコンのメールが全然来ないのよ。
定期に来るメールマガジンすら来なくて…あなたは
メールちゃんと受信できてる?」
「うん、来てるけど」
返事がとてつもなく遅いせいだろうか、友達やサイトの
メールフォームからのメールは悲しいほど少ないが、
「私を虐めて下さい」
とか
「私の処女を35万で貰って下さい(当方27才女)」
といったメールは山ほど来る。残念ながら僕はマゾ且つ
ロリコンなので興味はない…。僕と嫁は同じ回線を使っている。
嫁だけ来ないということは嫁のパソコン内に問題があるはずだ。
僕は嫁のメールソフトをいじってみた。虐めてメールや
処女貰って下さいメールのようなSPAMを避けるために
メッセージルールというものがある。
**@**というアドレスから来たメールはサーバーから削除する、
とかそういう設定である。それがあやしいと思った。
原因はすぐ分かった。
なんと「すべてのメール」を「サーバーから削除する」
というメッセージルールを作ってしまっていたのだ。
これでは誰が嫁にメールを出しても、メールボックスに
届く前に削除されてしまうではないか。
僕はその設定を解除し、僕のパソコンからメールを
送ってみた。瞬時に「ウホッいい男」と書かれた、
まごうことなき僕からのメールが届いた。
「嫁。そんなわけで直ったよ」
「どうして?!どうしてこんな設定を作っちゃったの?」
…知るか。嫁はしばし愕然としていたが、突然
「キャアアアア!」
慟哭とも悲鳴ともつかぬ声を上げ床に突っ伏した。
「オイ…どうしたんだよ…」
「なんか、自分のバカさ加減に呆れ果てて…」
「ま、ヤギさんに食べられたと思ってさ…」
僕は嫁を思い切りからかってやろうと思ったのだが
自己嫌悪のズンドコに陥った姿を見て、慰めるしか
なくなってしまった。
「どうしよう…ひょっとしたら今まで貰ってたはずの
メールがあったかも知れないのに…」
「めぼしい人にメールで聞いてみれば?」
「ど、どんな風に書いて送ったらいいのォ!」
「分かったよ。文を考えてやるから…」
「あああ、私ったら本当にバカ…」
しょぼくれる嫁と苦笑いでフォローする僕は
わりといい感じの夫婦像なのではないか、と
嫁の苦悩をよそに悦に浸っていた僕であった。
メール受信できるようになったお礼に、僕の、その、
棒のようなものも受信してくれないかな〜。
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