いったい何をしに京都くんだりまで行ったのだ。
彼は自問自答した。
こんなはずじゃない、という思いが駆け巡る。
こんなモンの為に時間を割いたんじゃねぇ!
今回も楽勝のはず、だった。
前回同様、勝利の雄叫びをあげるのは自分のはずだった。
事前リストを見た時、彼はまたしても勝利を確信した。
”敗北”の文字はとうに忘れ去った。
”以前のオレじゃぁ、ないんだよ。”
周囲にそう言ってはばからなかった彼だった。
その顔は自信に満ちあふれていた。
周りの誰しもがそういう印象を持った。
そう。彼は変わったんだと。
当日。
彼は遅れて会場入りした。
勿論、計算の上で、だ。
彼の宮本武蔵の故事になぞらえてかどうかは定かではないが。
そうして、少し離れたところからじっと場面の空気を読んでいた。
その時が、来た。
目的のブツは最後に出てくるはずだ。
それまでは退屈な時間だ。
ここで彼はちょっと遊び心を抱いた。
魔が差した。
彼はそう懐述する。
運試しにと、取敢ず参加してみたのだ。
ブツは彼にとっては小物ばかりだ。
取るに足らん・・。
が。
その結果にがく然とする。
遊びのはずが、擦りもしない。
ことごとくはじかれた。
! どうしたことだ・・・。
焦った彼は闇雲に突っかかって行った。
まるで、あの悪夢を振り払うかのように。
かろうじて一度、引っ掛かった。
不本意だが、なんとかこれを取っ掛かりに!
しかし。
彼の気合いもこの時点で、すでにピークを越えていた。
この日、彼が勝利の雄叫びをあげることはなかった。
彼の闘志は京の夜に、散った。
後日。
記録係の者からこの日の闘いの記録を見せてもらった時。
彼は腰が砕けそうになる。
・・・ちょき、ばっかりじゃねぇか・・・。
改めて自分の甘さに気づいた。
と、同時にヤツの拳が目の前に迫ってくるような、そんな息苦しさを感じた。
けっ!たかがじゃんけんじゃねぇか。
そう、うそぶいてみたが余計に自分のヨワさに苛立っただけだった。
この日、木枯らし一号が、大阪の街を駈け抜けた。
もうすぐ、また新しい闘いの場がやってくる・・・。
【了】
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