2015年11月25日(水) |
11月の主なスポーツ評 |
(1)ラグビー熱はいつまで続くか(11月13日)
ラグビートップリーグが始まった。日本代表がイングランドW杯で南アフリカに奇跡の勝利をあげたため、一気に盛り上がったラグビーだが、世はまさに「五郎丸ブーム」であって、ラグビーブームではない。
筆者はラグビーという競技が好きではない。ルールについては、なんとなくわかっているつもりだが、詳しくはない。そもそも実際にプレーした経験がない。見ている限り、ごちゃごちゃと大男が互いに寝転がっているシーンがほとんどで、スペクタクル性に乏しい。だから、「五郎丸ブーム」には興味もないし、日本のトップリーグを見る気も起らない。
日本人がこの先、ラグビーを好むのかと考えると、好きな人は少数にとどまるような気がする。今後の国際大会でジャイアントキリングを次々と引き起こせれば、純粋ラグビーファンも増えていくような気もしなくはないが、この競技に大衆性はないと思う。
(2)横綱白鵬のネコダマシ(11月17日)
大相撲が純粋スポーツだと思っている人は少ないとは思うものの、横綱が格下相手に奇襲ネコダマシを仕掛けたのは意外だった。そんなことをしなくても楽に勝てる相手なのだから愚行だとする見解が一般的だが、相手が相手だから、失敗しても間違いは起こらない(負けない)という確信のもとで白鵬は仕掛けたのだろう。お遊び感覚だろうか。いらんサービス精神を発揮したというよりも、白鵬が真面目な横綱を演じることに疲れた、と解釈できる。モチベーションの低下、白鵬の引退は近いのではないか。
(3)黄昏のサッカー日本代表(11月17日)
サッカー日本代表がW杯アジア二次予選でカンボジアと現地で戦い、2−0で勝った。この勝利で日本がグループ首位に立ったが、内容的にはひどかった。とりわけ前半は、どちらがFIFAランキング上位(日本50位、カンボジア183位)だかわからなかった。
そもそも二次予選は足切り。この段階では、日本は圧倒的な強さを見せなければいけない。最近では、W杯予選で楽な戦いはないとか、アジアで楽な戦いはないとかいう言説が肯定されるようになったが、甘すぎる。国際試合だから厳しい、というのは観念論。サッカー日本代表がおかれている恵まれた環境(資金力、国民の強い支持、国家の安定性、民力等)を考慮するならば、二次予選の相手(シリア、シンガポール、カンボジア、アフガニスタン)に苦戦する理由は見つからない。この段階で苦戦する理由は、日本代表の力量が低下しているから。当コラムで何度も指摘するように、日本サッカー界が人材払底期のサイクルに差し掛かったから。
改善策はあるのか――と言われれば、その答えは「ない」。主因としては、▽若手の強化を怠ったこと、▽代表選手選考の偏り(不公平性)、▽タレント不足――が挙げられるが、これらの事項は、“タレント不足”という本質をアンバンドリングしただけのもの。才能のある者が埋もれているという状況ではなく、才能のある者がいないということ。奥の手としては、Jリーグで長年活躍している外国人選手に日本に帰化してもらうことだが、そのような選手も見当たらない。
2〜3年鍛えれば強くなる、というのは幻想。前出のとおり、ラグビー日本代表がW杯イングランド大会で奇跡を起こしたが、ラグビー日本代表の対南アフリカ戦先発15選手のうち、外国人(外国にルーツをもつ者を含む)は、三分の一(5/15)を占めた。サッカーの代表チームはラグビーのそれとはレギュレーションが異なるため、サッカー日本代表において、三分の一(3〜4/11)の外国人等を先発で起用することはできない。前出のとおり帰化はもとより困難。
とにかく、この状況でサッカー日本代表がW杯アジア地区最終予選を勝ち抜く方法をみつけなければいけない。ハリルホジッチの手腕次第だが、その手腕に不安がある。いまのサッカー日本代表は、格下相手にさえ、安定した戦いができていない。ハリルホジッチは、2015年については、いろいろな選手を試す時期と位置づけているようだが、試すまでもなく、ブラジル組を凌ぐ才能はみつからない。戦力の上積みと認められるのは、武藤嘉紀ただ一人。
筆者の独断と偏見によると、現状の戦力でロシア行きを決める方法は、ベテラン(本田、岡崎、香川、長谷部、長友、吉田、森重ら)に頼る以外にない。ブラジル大会と変わらないメンバーだ。言い換えれば、ハリルホジッチ監督が目指すフィジカル重視のサッカーを諦めること。ブラジル大会の日本代表は世界から取り残された、時代遅れのサッカーで惨敗した。それを継承すれば、ロシア本大会でも通用しないが、アジア諸国のいまの実力ならば、予選突破はできる。ハリルホジッチ監督が目指すサッカーを続けるよりは、予選突破の確率は高い。もちろん予選突破したとしても、世界では通用しないからロシアの本戦では、せいぜいベスト16入りを目標とするくらいが精いっぱい。
(4)ACL決勝戦、Jリーグとの低レベルを思い知る(11月21日)
ACL決勝・広州恒大(中国)―アルアハリ(UAE)の第2レグ(第1レグは0−0)は熱戦だった。解説者のJ氏が「レベルが高い試合ですね」を連発していたが、まったくそのとおり。
確か、W杯ブラジル大会開催前、「世界のサッカー・トレンドはフィジカル重視になっている」と予言めいた発言をしたのは、元日本代表監督オシムだったような気がする。オシムよりも先にそのようなことを指摘した人がいたのかもしれないが、筆者にはオシムの指摘が鮮明に記憶に残っている。
ブラジル大会を経て、このアジアのクラブチーム最強を決める試合で、フィジカル重視のサッカーが、しかもレベルの高い次元のそれが、目の前で展開されている。それは残念ながら日本ではなく、中国の広州の地だった。
広州恒大―アルアハリは、J1クラブの試合とはまさに別次元。まさにフィジカルの戦いだった。フィジカルというと、「競り合いに強い」というイメージが浮かぶが、現代サッカーのフィジカルは「はやさ」にある。攻守の切り替えの「はやさ」、パススピードの「はやさ」、反応の「はやさ」、判断の「はやさ」、タックルの「はやさ」、プレスの「はやさ」、そしてもちろんスプリントの「はやさ」・・・そして、競り合いの激しさ、タックルの深さ――が観客の心を奪う。この試合が決勝戦だから両チームともモチベーションが高かったという側面はある。だが、普段から練習と実戦で鍛えていなければ、大事な試合で最高のパフォーマンスを発揮することは不可能。
それだけではない。両チームともセレソン及びそれに準ずる、実力ある外国人選手を補強して、クラブの力量を高めている。外国籍の実力者が国内プレイヤーと融合し、国内のレベルが上がっていく現象は、初期の日本(Jリーグ)で認められた。この先、中国、UAEのみならず、中東湾岸諸国、東南アジア諸国が日本を脅かす存在となるだろう。
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