2014年07月18日(金) |
日本代表の見えない問題点 |
◎協会担当者は責任をとってまず辞任すべき
W杯終了後の日本代表を取り巻く問題の第一は、日本サッカー協会がブラジル大会惨敗の責任をとろうとしないことだ。もちろんまだ検証の段階だという言い訳はとおる。そう簡単に敗北の原因究明はできません、という主張もありだろう。しかし、負けたことは事実なのだから、協会として、敗退が決定した時点で代表強化の職にあった者は辞任すべきだ。いきなりトップというわけにはいかないだろうから、まずは技術委員長が辞めるべきだ。
南アフリカ大会終了後からW杯ブラジル大会に至るまでの4年間、技術委員長が日本代表を実質上マネジメントしてきた。その具体的一歩が代表監督選びであり、ザッケローニの招聘であった。ザッケローニの代表監督招聘は結果的には失敗だった(失敗の詳細については後述する)。
◎誤った強化策を反省せよ
次に問われるべきは、大会に臨む前までの強化策であり、その失敗の構造改革なしでは先に進めない。なかで重要なのが、日本代表が日本国内で海外代表チームと行う親善試合(=強化試合、練習試合)のあり方だ。
親善試合はTV視聴率が高く、また、種々のメディアの注目度が高いため、広告代理店にとってドル箱のイベント(マーケティング上の)になっている。そのため、海外の代表と銘打って、調整不足の海外代表チームが強行日程で試合をするケースが軒並みだった。日本と欧州等のサッカー日程の違いから、有力選手が集まらないケースも少なくなかった。それでも試合開催前は国歌が演奏され、大使等が観戦に訪れ、代表戦の体裁だけが整えられる。
それだけではない。代表戦というだけで盛り上がる日本の脳天気「代表サポーター」が多数集まり、公式戦さながらの応援をしてくれる。
メディアもやってくる「海外代表」の実態を報道しない。有力選手が不在でもそのことを報じない。
玉石混交の「代表」選手で構成された代表チームが日本にやってきて、日本代表と試合をするだけで、サッカー協会には巨額のカネが集まり、代理店にとっては価値の高いイベント(コンテンツ)として高く売れる。TV局は高視聴率が取れ、印刷媒体も売れる。日本代表の国内親善試合は、概ね日本の勝利で終わり、スタジアム、あるいはTVの前の「代表サポーター」が満足する。
協会、代理店、メディア、「サポーター」の4者にとってウイン・ウインの国際親善試合だが、もちろん日本代表チームの強化には結びつかない。加えて、欧州から日本に帰国する日本代表の「海外組」も長距離移動でコンディションを壊しクラブでのレギュラー争いに負ける要因となる。つまり、カネもうけにはなるが、代表強化には何の益もないのが「国際親善試合」の実態なのだ。こんなことは、サッカーを知る者にはだれでも承知のことだが、カネの力には勝てない。このビジネスモデルを協会が諦めなければ、代表強化は無理だ。なぜ、海外組がたかが親善試合に呼ばれるのか、そのことは後述する。
◎メディアに巣食う“太鼓持ち”(解説者)を一掃せよ
サッカー解説者と称していったい何人の“太鼓持ち”コメンテーターがTV出演したことか。中継中に大声で叫ぶだけの応援団的コメンテーターの方が多数派だ。根拠のない対戦予想が花盛りで、「3−0」で日本勝利が定番化している。うち幾人かはサッカー解説をする者もいるものの、いずれ日本サッカー協会等から「お声」がかかる身だから、日本代表を批判する者は極めて少数派となる。
例外はセルジオ越後ただ一人。彼は日本サッカーに対して実にクールな立場を堅持し続けている例外的存在だ。セルジオ越後がいまの立場を堅持できるのは、サッカー協会やJリーグに取り込まれる可能性を自ら否定しているからだろう。セルジオ越後を除いたコメンテーターは就職がかかっているのだ。
この状況を換言すると、日本には専門職としてのサッカーコメンテーターは、セルジオ越後以外存在しないということ。もちろん、サッカーを専門的に扱うメディアもない。前出のとおり、代表サッカーを支配しているのは大手代理店である。メディアは代理店に隷属しているから、代理店が(コンテンツとして)大切にしている日本代表を貶めるような記事・報道を控える。
だれからも、どこからも批判の矢が飛んでこないのが、日本代表という存在なのだ。代表は大手広告代理店のメディア支配に守られている。この体制を脱して、日本代表を自由に批判し、その問題点糺すようなメディア環境(サッカージャーナリズム)が日本に醸成できれば、日本代表のあり方は、そう長い時間を要さず、変えていけるかもしれない。
ブラジル大会前、“太鼓持ち”の多くは、日本代表がグループリーグを悠遊突破し、ベスト8に入ると予想していた。景気づけのつもりなのか本心なのか保身なのか・・・代表というお座敷を盛り上げるのが彼らの仕事なのだからそれはそれで仕方がないとはいえ、根拠のない楽観論にはウンザリ。彼らを一掃することも、代表強化の周縁的事業の一つとなる。
◎大手広告代理店による日本代表支配
その実態について確実な取材していないので、以下の記述は推定にすぎない。だが、そう考えた方が自然だと思うので書いておく。その根拠は以下の3点だ。
(1)日本代表試合が広告代理店にとって有力なコンテンツになった (2)その結果、無益な海外チームとの親善試合が国内で興行目的のイベントとして仕掛けられた (3)メディアも大手代理店の意向をうけ、代表批判を控えてきた (4)W杯はその総集編とも呼ぶべきビッグイベント
◎代理店が代表選手選考、戦術へ介入しだした
広告代理店が代表選手の選考や戦術に影響を及ぼすとしたら、どうだろうか。そんなことは不可能だと考えるか、いやそんなの常識だよ、と考えるか。前者のようなナイーブ(ウブ)な観点の「代表論」は、筆者にとって魅力がない。つまり、前者の立場のカテゴリーの代表論は、多くのメディアの代表論で言い尽くされているからだ。
今回のW杯の日本代表、とりわけ試合に出場した選手たちの顔ぶれは、CMキャラクターとしてメディアに露出した顔ぶれとシンクロしている。実力がある選手だから海外に移籍し、メディアの話題となり、そのことを価値としてCMに起用されるというのが自然の流れだ。だれもがそう考える。
ところで、W杯ブラジル大会のMVPがメッシ(アルゼンチン)だったことは、だれもが疑問をもった。メッシが大活躍した記憶がないからだ。しかし、彼がアディダスの契約選手だったとわかれば、驚かない。
日本代表の背番号10はアディダスとの契約選手で受け継がれている。例外は2002年:トルシエが代表から外した中村俊輔のケース。もちろん現在の背番号10の香川真司もアディダス契約選手。
本大会に臨む前の香川真司はどうだったのか。イングランドで試合に出られず、日本代表試合でも活躍していない。香川真司に代わる人材はいなかったのか?こうしたメーカー等とスポーツ選手との密接な関係は、日本代表にも認められる。
余談だが、筆者は圧力に屈せず中村俊輔を代表から外したトルシエをその一点で評価している。
本田圭佑はW杯開催前後、NTTドコモ(携帯電話)、オリンパス(カメラ)、ミンティア(菓子)、キリン(ビール)、ユニクロ(衣料品)、マクドナルド(外食)、TBC(エステ)、コカコーラ(飲料)、ベンツ(自動車)等々のTVCMに出演している。ほかにも、スポーツメーカー、腕時計、サングラス等のメーカーとの専属契約もあるという。こうしたCM契約と出演は広告代理店の主たる業務である。
その本田圭佑だが、彼は本業のサッカーでは調子が上がっていなかった。おそらく選手としてのピークも下り坂にさしかかったのではないか。ACミランでも点がとれない。フィジカルもおかしい。それでも本田圭佑は日本代表の中心選手として君臨し続けた。
日本代表監督のザッケローニは、香川真司と本田圭佑を攻撃の中心としたチームづくりをしてきた。しかしながら、彼らの調子が上向かないことが現実となった時、それに代わる人材と戦術に切り替えるチームづくりを怠った。
たとえば、本田圭佑を経由しないセンターフォワード(CF)を基点とする攻撃スタイルを模索する道筋もあった。CF候補としては、豊田陽平、ハーフナーマイク、佐藤寿人、川又堅碁がいた。ザッケローニは代表選考において、彼らを排除した。その背後に代理店と結託した日本サッカー協会(技術委員長)がいたことは想像に難くない。また、本田圭佑が彼らを個人的に排除したとも言われている。ザッケローニは、トルシエが中村俊輔を切ったような強硬的選考を回避した。
そのザッケローニだが、W杯グループリーグの試合のリードされた終盤、CBの吉田麻也をパワープレーで前線に張り付かせたのだから、日本代表の選手選考の矛盾を公にしたようなものだ。このことをとっても、代表選手選考において、ザッケローニに圧力が加わったことは想像に難くない。
長谷部誠にも同じことがいえる。彼もキリンレモン(飲料)、ニベア(化粧品)、ボルビック(飲料)、アテッサ(時計)、日本ユニセフ協会等のTVCMに出演しており、書籍の刊行もある。ドイツではレギュラーもおぼつかなく、しかも故障あがりでありながら、彼が実力以上に評価されたのは、キャプテンシーというよりも広告代理店にとって重要だったからではないか。その影響で代表選考から漏れたのが、細貝萌だ。彼はドイツでレギュラーであり、実力では長谷部誠を大きく上回りながら、日本代表に残れなかった。
大手広告代理店が海外組をCMキャラクターとして企業に売り込み契約をし、その見返りとして、日本代表試合に出場させてメディア露出を保証する。そんな仕組みで日本代表ビジネスが成り立っているとしたら、日本代表はサッカーをする前に負けている。CM出演が実力に優先するような代表サッカーの構造を改革しなければ、日本は強くなれない。
◎ロシア大会に向けて何をなすべきか
(一)海外ブランド漁りはやめたらどうか
ザッケローニというイタリア高級ブランドに手を出して失敗した日本サッカー協会は、W杯敗北の検証も終わらないうちに、こんどはメキシコブランドに触手を伸ばしているという。メキシコのサッカー事情を知らない筆者だが、体格は日本人と同程度で小柄ながらW杯ではつねにベスト16以上をキープしているという。海外移籍が盛んでなく、メキシコ国内リーグで活躍する選手を主体とした代表チームづくりが特徴だという。
(二)ロシア大会は国内組が主力か
W杯で不調だった日本代表だから、海外移籍は前の4年間より盛んではなくなる傾向になろう。W杯終了後に海外移籍が決まった代表選手は柿谷曜一郎だけ。欧州サッカーにおける来季(14−15シーズン)、本田圭佑(イタリア)、香川真司(イングランド)のリーグ戦出場機会はさらに減少するだろう。二人とも海外遠征メンバーとして残るのが精いっぱいではないか。
ドイツは世界王者となったため、優秀な海外選手の流入も増えそうだ。当然、清武弘嗣、大迫勇也、乾貴士、岡崎慎司、酒井高徳、酒井宏樹、長谷部誠、原口元気、細貝萌らのレギュラーへの道は険しい。海外組でほぼレギュラーがとれそうなのは、内田篤人(ドイツ)と長友佑都(イタリア)しかいないのではないか。
(三)日本代表の暗部に目を向けなければ強くはなれない
そんななか、国内リーグ選手を中心とした日本代表づくりという状況を迫られるのならば、メキシコの目を向けることも悪くない。だが、メキシコ代表には、大手広告代理店が介入するような環境は絶無だろう。外形的サッカー情報でメキシコサッカーとその監督に適格性が見いだせたとしても、日本代表の暗部と深部に向けて構造改革がなされなければ、どこのだれが監督になっても変化は期待できない。代理店の圧力を排除できるような人物ならば、国籍、サッカー観はあまり関係ないような気もする。そう感じるほど、日本の代表サッカーは腐っているということだ。
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