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2012年04月15日(日) OA枠は使うな――五輪サッカー代表選手選考

ロンドン五輪開催(7月27日から8月12日/17日間)まで3か月余り。それぞれの競技の代表権獲得や、日本代表選手選考が進んでいる。なかで比較的早期に代表権を獲得したのがサッカーであった。五輪サッカーは予選においてはU23という縛りがあるものの、五輪本番では、オーバーエイジ(OA)制度が採用され、24歳以上の選手を3人までナショナルチームに入れられることになっている。

そもそも、五輪サッカーに関しては、世界で最高レベルにあると言われる欧州では関心が低い。日本は五輪至上主義が各競技において広く信奉されていて、サッカーでもそのとおりなっている。だから、清武選手のように五輪代表とフル代表の兼任という、欧州ではあまり聞いたことのない境遇の選手まで生じた。清武選手のような事例は、リーグ優先の欧州ではあり得ない。リーグ戦出場より五輪予選出場が優先されることもあり得ない。清武選手は、五輪代表、フル代表、リーグ戦を兼任したことによる過酷なスケジュールにより故障し、長期離脱したことは記憶に新しい。

エース清武が抜けたわが五輪代表は、アジア予選においてシリアの自滅に救われ、なんとかアジア枠を突破したものの、予選の試合内容、とりわけ、アウエーの試合ぶりには不安定さばかりが目についた。だから、ロンドン五輪本番でメダルを獲得するためにはOA枠を使ったほうがいい、という意見も強くなる。

だが、結論を言えば、五輪サッカーにOA枠を使用する必要はない。五輪サッカーにメリットがあるとしたら、日本の若手選手が国際経験を積むこと以外に考えられない。先述したとおり、日本の若手選手はアウエーの経験が乏しい。南米、欧州では10代で海外クラブとプロ契約を結び、各国のリーグで試合出場の機会を狙う選手が少なくない。

たとえば、世界最高水準にあるといわれるリオネル・メッシ(アルゼンチン生まれ)は13歳でスペインのバルセロナと契約し、17歳でリーガ(プリメーラ・ディビシオン)に出場している。同じく、ポルトガル人のクリスティアーノ・ロナウドは16歳でポルトガルリーグに初出場し、18歳でマンチェスターユナイテッドの選手として、イングランドプレミアリーグデビューを果たしている。このような事例は、トップスターに限られるわけではない。10代でプロ契約を結び、持って生まれた才能に厳しい練習を積んで上を目指すのがプロサッカー選手のグローバルスタンダードなのだ。彼らに国境というものは存在しない。日本では五輪代表→フル代表→W杯代表→欧州リーグ、というステップアップがほぼ図式化されていて、10代の選手がプロの世界で活躍することが珍しがられるが、世界では、10代後半は「若手」とは呼ばれない。プロ選手に年齢は関係ない。

欧州では、若くして海外のトップリーグで活躍する選手が五輪代表に呼ばれることはない。欧州のクラブは、五輪予選よりもリーグが優先である。その結果、欧州強豪リーグで活躍する若手選手が五輪予選試合に不出場であるため、五輪予選に敗退する国も出てくる。つまり、若手のトップ選手が必ずしも五輪に出場するとは限らない。もちろん、FIFAは五輪サッカーのステイタスアップに努めているため、欧州各クラブに「五輪優先」を呼びかけているが、その呼びかけの実効性は極めて低い。

さて、日本の五輪代表である。OA枠として、たとえば、W杯2002年南アフリカ大会に出場した選手を五輪に出場させたとしよう。遠藤、中沢、闘莉王、本田、岡崎・・・だれでもいい。彼らと、このたびのアジア予選を勝ち抜いたU22五輪代表選手との間の違和感は、限りなく大きい。いまさら、本田や闘莉王に“国際経験”もないだろう。五輪に行けなかった選手が「よき思い出」としてロンドン五輪を“楽しむ”ということも考えられなくもないが・・・そんな情緒的な意義しか思い浮かばないのが「OA枠」なのだ。ベテラン選手で五輪代表選手枠を3つ無駄に使うよりも、国際経験の少ないU23世代を実戦で使ったほうがどれだけましだかわからない。

そればかりではない。日本の若手が五輪に視察に来た欧州クラブのスカウトの目にとまる可能性もある。五輪では、欧州クラブのスカウトたちにとって、OA枠出場選手たちは、“意味のない存在”にすぎない。若手に世界の道を開かせるためにも、OA枠は使用しないほうがいい。その結果として、メダル獲得が果たされなかったとしても、悲観することはない。日本は、1968年メキシコ五輪で銅メダルをとって以来、メダル獲得から遠ざかっているが、その実力は近年、向上の一途をたどっている。日本サッカーは初出場した1998年以来、自国開催の2002年を含め、4大会連続でW杯に出場しているが、五輪サッカーでは活躍していない。このことからも、五輪サッカーのメダル獲得の有無は、日本のサッカーの実力向上のメルクマークとなっていないことがわかる。五輪サッカーのレベルは、その程度のものなのだ。

五輪代表選手の選考は、U23代表としてアジア予選を戦った選手を主軸とすべきであり、加えて、Jリーグでチームに貢献しているU23の選手を対象とすべきである。


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