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2011年09月05日(月) 南アフリカの栄光は遠い過去のこと

◎ザックジャパン、進歩なし

サッカー日本代表は北朝鮮が苦手なのか。ここ数年、何試合か続けて、北朝鮮との公式試合で辛勝が続いている。日本代表はこのたびのアジア3次予選を通じて、アジアで頭一つ抜け出した存在であることを見せつけたかったはず。

W杯南アフリカ大会ベスト16の実績を基に、多数のJリーガー日本代表選手が欧州に渡ったこと、そして、先の日韓戦での3−0の圧勝という2つの事実は、日本がアジアでそのような存在であり得る可能性を示したように見えた。ところが、われわれは、アジア3次予選初戦において、そのことが幻想であることを思い知らされてしまった。

代表関係者に限らず、サッカージャーナリストを含めた日本のサッカー関係者は、日本辛勝のたびごとに、「アジア予選で楽な試合などない」、あるいは、「引いた相手では、そう簡単には点がとれない」「過酷なアジア予選」という。もちろん、国際試合、とりわけ、公式戦に楽な試合はない。親善試合であってもアウエーならば、楽な試合はさせてくれない。確かにそのとおりなのだが、このままでは、日本がアジア予選で頭一つ抜けた存在である日は永遠に訪れない。では、どうしたらいいのか――

◎本田欠場で一気に脆弱化

北朝鮮戦でベンチ入りした日本代表選手は以下のとおり。

[先発]
GK:川島永嗣、
DF:駒野友一、今野泰幸、内田篤人、吉田麻也
MF:遠藤保仁、長谷部誠、柏木陽介→清武弘嗣(後半15分)
FW:李忠成 →18 ハーフナー・マイク(後半25分)、 岡崎慎司、香川真司
[サブ]
GK:西川周作、権田修一、
DF:栗原勇蔵、伊野波雅彦、槙野智章
MF:阿部勇樹、細貝萌
FW:原口元気、 田中順也
※ 中村憲剛(帯同)

対北朝鮮戦を迎える状況について、振り返ってみよう。試合前から、日本代表は「小さな」危機を迎えていた。その危機とは、本田(飛車)・長友(角)が負傷欠場したこと。さらに森本、中村憲も負傷欠場した(中村はチームに帯同)。直前に追加招集されたのが、ハーフナー・マイク。このハーフナーが北朝鮮戦で思わぬ活躍をすることになるとは予想だにしなかった。

ザッケローニ監督は、本田不在を柏木で埋めようと考えたようだ。だが、筆者は、彼が本田の代役を務められるとは考えない。柏木が本田のポジションに入った場合のサッカーは、これまでの本田中心の日本代表とは全く異質なものとなるはずだ。ところが、本田不在のサッカーをするための準備は、十分とは言えなかった。日本苦戦の本質はそこにある。

本田は、南アフリカW杯予選から本大会まで、抜群のキープ力を生かしてポストプレーをこなしてきた。日本が強さを発揮する試合というのは、本田が前線で十分ボールキープできた場合を言う。

北朝鮮戦で日本代表が攻撃の形をつくりだしたのは、長身のハーフナーがトップに入り、香川がトップ下にポジション変更をしてから。前線のターゲットが明確になり、香川、清武、岡崎の3人が活性化した。北朝鮮選手の疲労、GKの不安定さ(試合途中での怪我による)、フィールドプレイヤーの一人退場という、日本に有利な条件が重なったことも幸いした。

アジア予選、とりわけ東アジア勢との戦いでは、前線でのボールキープおよびポストプレーが必須となる。柏木は才能のある選手だが、彼にそれらの役割を託すことは間違っている。いまの日本代表のチーム状態では、彼のプレースタイルが香川、清武、岡崎らを生かすには不向きなのだから。


◎解消されない決定力不足

急成長した長友(SB)の不在は駒野が埋めることになったが、駒野は、ぎりぎりで合格点がつけられるような感じ。大きなミスはなかったが、攻撃面での貢献は低かった。それよりも何よりも、日本が苦戦した最大の原因は、決めるべきところで決められない決定力不足にある。このことは幾度も指摘していることなので、繰り返さない。

◎試合に出ていない選手は代表に呼ぶべきではない

代表主力選手の怪我という、突発的なものでなく構造的危機としては、日本代表を構成する選手たちのうち、欧州に移籍した選手――阿部、細貝、槙野――が、ほぼ1年間、試合に出場していないこと。一見豪華メンバーに見える日本代表だが、実戦でもまれた選手となると少数となる。オシム元日本代表監督は、試合に出ていない選手は代表に呼ばないことを明言していた。このことをザックジャパンも、再確認する必要がある。

◎代表に必要なアウエーでの強化試合

本田の代役(前線でボールキープできる強靭な選手)の不在、試合に出ていない選手の代表招集、すなわち、人材不足という構造的欠陥が日本苦戦の主因の1つ。さらに、代表強化の手法にも問題がある。まず、親善試合におけるアウエー戦が少なすぎること。

日本の場合、直近のアジア杯の遺産をつかって、W杯アジア3次予選を戦おうとしている。この試行が間違いとは言えないが、できれば、予選前に、欧州組を主体としたアウエー戦を2〜3試合やっておきたかった。

◎9.6ウズベキスタン戦が最大の難所

日本の飛車角(本田・長友)はいずれ、復帰するだろうが、2人が復帰したとしても、“ブラジルへの道”は意外と険しいことが予想される。いわんや、飛車角不在で戦う9月6日のアウエーのウズベキスタン戦が、最重要の試合となる。ウズベキスタンは北朝鮮より当たりが強いし、高さもあるだろう。ホームだから、コンディションもいいはずだ。後半終了間際、セットプレーからDF吉田の一撃というパターンはまず、無理だろう。加えて、審判の判定もホーム・ウズベキスタンに有利に働く可能性が高い。このように並べてみると、北朝鮮戦よりも不安な要素がそろいすぎている。

南アフリカの栄光は遠い過去のこと。3次予選を戦っているいま、残念ながら、日本がアジアで頭一つ抜け出しているという状況はつくれないままだ。FIFAランキングがいくら上がっても、日本の実力は、アジアの強いグループの1つにすぎないという位置づけから脱しきれなかった。

こうなれば、油断大敵、横綱相撲は無理なのだから、謙虚に、ひたすら走る挑戦者に徹するしかない。


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