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2010年06月04日(金) 調整遅れのカメルーン――日本にチャンスあり

W杯に向けた練習試合、ポルトガルvsカメルーンは、ホームのポルトガルが3−1で勝った。録画中継されたこの試合を見たところ、筆者がかねがね、当コラムで力説してきた“カメルーン対策”が、的外れでないことを改めて確信した次第である。

試合早々、カメルーンのスーパースター・エトーが2枚のイエローをもらって退場。親善(練習)試合としては最悪の展開だった。この試合は、エトーの退場に加え、カメルーンが1週間に3試合の練習試合を消化した3試合目に当たるという。つまり、主力中の主力の退場に、過密日程による疲労という悪条件が重なったわけで、カメルーンのチーム状態を計るにはまったく適さないという見方も出来る。だが、筆者はこのチームは、いまだ、おおいなる調整過程にあるものと確信する。換言すれば、この試合のカメルーンは、絶好調のカメルーンではないし、前出のとおり、チームは限定された状態にあり、本番における姿とはほど遠いにもかかわらず、それでも、カメルーンの弱点が象徴的に現れた試合だと断言できる。以下、繰り返しになるが、“カメルーン対策”を総括しておこう。

■カメルーンの守備陣はザル状態

カメルーンの守備陣の連携の悪さは、アフリカ選手権から修正されていないままだ。カメルーンのルグエン代表監督はこの期に及んで、CB二人を決めかねている。このことは、グループリーグのカメルーンの対戦相手(日本ほか2カ国)にとって、たいへん喜ばしい。

そればかりではない。ポルトガル戦に出場したCB二人は、スピードに欠ける。世界レベルのスピードをもつFWならば、裏を取れる機会は十分にある。そこで重ね重ねも残念なのが、岡田代表監督が、FW佐藤(広島)を代表に選ばなかったことだ。佐藤は日本人FWの中でもっとも相手守備陣の裏を取る才能に優れた選手の一人。カメルーン戦における最終兵器だった。体調不良の内田、中村俊輔、玉田、稲本のうちの一人の診断書をFIFAに提出して、佐藤を再登録してほしい。

■カメルーン選手は感情のコントロールが不得手

カメルーンに限らずアフリカ人選手は身体能力が高いといわれ、中でもカメルーン選手は群を抜いていると。そのことに間違いはないものの、だからといって、相手との競り合い、球際、接触プレー等に強いとは限らない。カメルーン選手全体に、折衝プレー、激しいチャージを嫌う傾向があるように思える。失礼ながら、彼らは意外にもナイーブなのだ。その裏返しとして、彼らは自分たちのペースを崩されると、苛立ちを隠さず、熱くなる。この試合、ゲームキャプテン・エトーが抗議とラフプレーで退場になったことは既に述べた。

エトーの退場には伏線があり、彼は試合開始直後、ポルトガル選手からタックルを受けて痛んだ。エトーは、このラフプレーにイエローを出さなかった審判に対し、不信感を抱いたかもしれないし、ポルトガル選手に怒りを覚えたかもしれない。エトーが、というよりも、カメルーン選手の傾向として、感情のコントロールが不得手だとはいえまいか。

日本側からすれば、カメルーンを大いに挑発すべきだ。執拗以上にチャージを加え、カメルーン選手のペース、リズムを狂わせ、苛立たせるべきだ。笛が多い試合にもちこめば、苛立ったカメルーン選手がラフプレーによるカードを受けて退場・・・と、墓穴を掘るかもしれない。なお、エトーが欧州チャンピオンリーグ決勝の疲労を引きずっていることも、日本には有利な要素である。

■アンカー=A・ソングを引き出せば日本に大きなスペース

カメルーンの守備的中盤は、A・ソングのワンボランチ(アンカー)。A・ソングは守備と攻撃の両方の基点となっていて、守備の統率、サイドのスペースを埋める役割を負い、さらに、前線への楔のパス供給までやる、まさに八面六臂の活躍をする。しかし、彼が攻撃に向けて前に出たときボールを奪えれば、ゴールに直結するスペースが生まれる。このことは、TV解説者の山本氏から再三指摘があった。しかも、この試合のようにカメルーンの最終ラインの動きが鈍い場合、大きなスペース=チャンスが、日本に生まれる。

■警戒すべきはカウンター、セットプレー、ミドルシュート

守備の連携に不安を残したまま、しかも、中盤の攻守の基点をA・ソングにおんぶに抱っこ、というカメルーンだが、日本がはるかに及ばない攻撃力をもっていることも確か。本調子でないエトーが本番まで眠ったままならありがたいが、日本が警戒を怠ってならないのは、エトーよりも、アチール・ピエール・ウェボのほうではないか。強靭な身体能力をもつウェボは、高さ、破壊力抜群のミドルシュートをもっていて、日本のDFでは止められないかもしれない。

■精神の主導権争いに勝つこと

サッカーに限らず、ボールゲームとは試合の主導権を争うもの。そのことは必ずしもボールポゼッションの比率を競う結果とはつながらない。相手にボールを回されても、それが守備ラインの前であれば、脅威は少ない。どちらがゲームを支配するのか、相手を自分たちの描いた術策にはめられか――そこに勝負の鍵がある。

日本は、カメルーンのリズムを崩し、カメルーンに試合のペースを握られないようにするため、考えられることすべてを試すべきだ。カメルーンの選手個々の実力は、日本をはるかに上回っていると思うものの、カメルーンはチームとして、熟成されていない。筆者は、カメルーンがチーム力・結束力・組織力において、いまだその弱点を修正できず、本番まで引きずるのではないかと考える。

■ブラック・アフリカ勢の基盤の弱さ

ブラック・アフリカ諸国全体に共通していることだが、彼らの自国リーグの基盤は脆弱だ。アフリカ選手権をエジプトが制覇したように、エジプトに代表される北アフリカ勢のほうがブラック・アフリカ諸国よりも国内リーグのレベルが高い。北の選手のほうが、国内リーグにおいて、厳しい経験を積んでいる。代表チームの強さとは、その国の国内リーグのレベルにシンクロする。

北に比べて、高い資質をもったブラック・アフリカ勢だが、彼らがW杯で高順位の成績を残せない理由の1つは、国内リーグというインフラの弱さにある。

日本はW杯日韓大会において、ホームの利もあったが、北アフリカの最強国の1つであるチュニジアに勝った。チュニジアは、アフリカ大陸内において、ブラック・アフリカ勢を凌ぐ実績を残している。カメルーンもエジプト、チュニジア等には簡単に勝てない。そのことが、日本がW杯南アフリカ大会のグループリーグにおいて、唯一勝つチャンスのある対戦相手がカメルーンだけだと推論する根拠となっている。

翻って、野球のWBC大会において、日本が2連覇を成し遂げられた主因の1つとして、NPB(日本プロ野球)の歴史の長さを挙げることができる。NPBはおよそ100年にわたり職業野球としての歴史をもち、日本人は野球文化を生活に根付かせている。日本社会をあげて、優秀な野球選手を育成し、選ばれた選手が若いころから厳しい競争により切磋琢磨を続けている。今日、サッカーにおいて、ブラック・アフリカ勢が個々に優秀な選手を欧州市場に送り出せてはいるものの、国家単位の代表チーム、すなわち、ナショナルチームとしては欧州・南米諸国の後塵を拝していることは、野球において、中南米諸国がWBCで簡単に勝てないことと似ている。

■「システム」よりも“気力”

日本がカメルーンに勝つには、これまでにも何度も当該コラムで述べてきたとおり、強い闘争心で結束し、チームとして未成熟なカメルーンを粉砕する以外に方法はない。岡田監督がそこまでの闘争心を選手に植え付けられるかどうか、選手が闘争心を抱けるかどうかにかかっている。個々の代表選手がどこまでタフになれるかどうか・・・このような尺度において、選手選考・起用を構想するのならば、登録メンバーのうち、カメルーン戦の先発メンバーは自明のこととなろう。

6月1日に最終登録者をFIFAに提出したものの、診断書さえあれば、メンバーの入れ替えは、試合開始の1日前まで受け付けられる。体調不良で調子が上がらない選手や故障が完治しない選手を見極め、カメルーン戦勝利に不可欠の選手を再登録することは、いまなら、まだ間に合う。


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