2010年05月26日(水) |
岡田ジャパン、戦う前に崩壊 |
W杯開催に向けた最後の調整であるスイス合宿直前、サッカー日本代表チームが崩壊してしまった。まさに、「この期に及んで」という形容が相応しい。これから結束を図ろうとする時期にあって、最悪の事態が勃発した。
危機の内実を挙げれば、大きくは2つである。1つは、岡田代表監督が「辞任」とも受け取られかねない「不用意発言」をして、マスコミを騒がせたこと。2つ目は、代表チームの主力中の主力、中村俊輔が「ギブアップ宣言」を発し、戦線離脱が現実のものとなったことだ。
◎岡田ジャパンが「弱い」ことがなぜ国内で認識されなかったのか
危機は、壮行試合であるホームの韓国戦に0−2の完敗したことから生じた。この試合結果が、日本代表が抱えている問題点を白日の下に晒した。抱えている問題点とは、筆者が当コラムで繰り返し言い続けてきたことだが、岡田の代表監督としての資質であり、日本代表がW杯南アフリカ大会出場国中、最も弱い(であろう)という認識の欠如にほかならない。前者についてはそのとおりに受け止めてくれればいいのだが、後者については、若干の説明を要するかもしれない。つまりこういうことだ。
日本代表がアジア予選を勝ち抜いたことは事実であり、否定の仕様がないのだが、アジア予選のグループ分けは日本にとって、ラッキーだった。予選グループの振り分けは、W杯出場経験国が2対4という偏向的なものとなった。かりに、3対3、すなわち、韓国、北朝鮮、サウジアラビア、イランのうち、どこか1カ国が日本と同一グループに入ったとしたら、日本はアジア予選でもっと苦しんだろう。だが、そうはならなかった。ご承知の通り、日本はアジアで最強と思われるオーストラリアと同組となり、予選グループ2位でW杯出場を決めた。この結果はW杯出場を果たしたという面では幸運だったかもしれないが、岡田ジャパンの「弱さ」を日本中が認識することを妨げた。岡田ジャパンの「弱さ」を指摘したサッカージャーナリストは管見の限り、S越後氏ほか数人にすぎなかった。
スポーツマスコミは、さらに、岡田監督が発した妄言「ベスト4入り」を批判もせず、あたかも現実的目標であるかのように報道した。そればかりではない。協会がマッチメークした国際親善試合(スポンサーはキリン)で来日した「○○代表」は、サッカーチームとして体をなしていないくらい酷い「代表チーム」ばかりだった。そんなチームに勝っていたのが岡田ジャパンの実態だった。
W杯イヤーに入ってから、風向きが変わった。2010年4月、本気モードの強豪国・セルビアに日本代表が完敗したころから、岡田ジャパンの「弱さ」がどうも認識され始め、代表サポーターも騒ぎ出した。しかし、あまりにも遅すぎた。
セルビア戦後、つまり、4月は、監督を更迭する時期としてはあまりにも遅い。岡田のクビを切って、その代わりの代表監督候補を探すにしても、手腕のある海外の代表監督経験者は、この時期引き受けない可能性のほうが高い。契約可能なのは、この時期遊んでいる人材ということになり、適任者でない場合が多い。ならば、日本人からの抜擢となるが、代表監督を務められる人材となると、西野朗(G大阪)、山本昌邦(解説者)くらいしか、思いつかない。しかも、西野はクラブとの契約があるし、山本は辞退するに決まっている。
◎俊輔は“無責任”といわれても反論できない
俊輔の「ギブアップ」発言は、予選を通じて中村俊輔を中心にしたチームづくりを行ってきた岡田ジャパンにとって、修復できないくらい深刻な問題だ。日本代表は5月初旬にW杯出場選手の選考を終えており、中村俊輔の故障が本番でプレーできないくらい重ければ、彼に代わる中盤を予備メンバーから徴集する必要が生じてくる。
中村俊輔は昨年6月、スコットランドリーグのセルティックを退団し、スペインのエスパニョールへ移籍した。しかし、スペインリーグが開幕しても出場機会に恵まれず、2010年、Jリーグ開幕直前、古巣である横浜Fマリノスに復帰した。
注目すべきは、彼がエスパニョールを退団した理由だ。サッカーに限らず、海外のプロスポーツ界の場合、選手が故障したら、故障の状態を正しくチームに申告しなければならない。プレーに支障をきたす故障を隠し試合に出場することは難しい。米国では、MLBのDisabled List(略称DL)、NBAのInactive Roster、NFLのInjury Reserveが日本でもよく知られており、いずれも「故障者リスト」と訳される。
中村俊輔がエスパニョールでレギュラーを獲得できなかった理由はいろいろあるだろうが、もしも、彼の故障が主因であるならば、彼を迎え入れた横浜は、彼を試合に出してはいけなかった。横浜のメディカルチェックが杜撰だったのか、木村監督が功を焦って無理やり試合に出場させたのか、木村監督は休ませたかったが、クラブ側が営業的圧力をかけて、出場を強いたのか、中村俊輔が入信している巨大宗教団体から、彼を試合に出すよう、クラブに圧力をかけたのか…どれもみな、筆者の邪推にすぎない。
いまさら、悔やんでも仕方がないのだが、クラブの健康管理システムと選手からの正直な申告は、日本スポーツ界における最重要課題の1つだ。日本のスポーツ界は、骨折した選手が試合に出場することが「美徳」とされる異様な世界だ。日本プロ野球では、連続出場記録に関心が高く、選手は肘を骨折しても出場し、マスコミ、ファンがそのことに喝采を送る。このようなことは、あってはならない。故障したら治療に専念するのがプロスポーツ選手の常識であることを浸透させたい。
さて、中村俊輔の場合、「Jリーグでは(自分が故障者であることを)だませたが、(韓国戦のような)国際試合になると、そうはいかなかった」というような意味の発言をして、顰蹙を買っている。この発言もプロスポーツ選手として失格だ。彼は、Jリーグのレベルが低いと発言しているにほかならないからだ。確かにJリーグのレベルは高くないし、筆者が再三指摘するとおり、互助会的“お嬢様サッカー”であることはそのとおり。
だがしかし、サポーターは中村の最高のパフォーマンスを見るために高額のチケットを購入する。故障でそれができない状態ならば、出場をしないほうがいいし、治療に専念して、できるだけ早く、全力プレーが出来る状態に戻すべきなのだ。
岡田ジャパンは、南アフリカで戦う前に、無能な指揮官と無責任な主力選手のおかげで、崩壊してしまった。日本代表が大会出場直前に崩壊するなんて前代未聞のできごとだが、このことはしかし、表面上は岡田と中村の愚言、愚挙から発生したことではあるものの、その責任は、岡田ジャパンに対するまともな批判を無視し続けた協会幹部(会長:犬飼 基昭、副会長 小倉 純二、鬼武 健二、大仁 邦彌、専務理事 田嶋 幸三)が負うべき性質のものだ。彼らが岡田を解任するタイミングはこれまでに何度かあった。直近では、今年の2月、東アジア選手権で中国と引分け、韓国に負け、その後のベネズエラ戦に引分けた時点だ。そこで協会が岡田更迭を決断していれば、大会直前での崩壊は免れたかもしれない。
◎何をなすべきか
大会初戦の6月14日まで、残された日数はおよそ20日間。いまさら選手がうまくなるわけはない。できることといえばそう多くはない。辞任しない岡田がやるべきことは、まずもって、故障者のチェックだ。韓国戦前、日本代表の選手のうち、玉田、松井、稲本、内田、闘莉王が故障で欠場した。加えて、中村俊輔の故障が重いことが発覚した。第3GKの川口は実戦から遠ざかっていて、おそらく本番は無理だ。つまりこの期に及んで、W杯メンバーの23人中7人が危ない。こんな選考をした岡田はいったい何を考えているのか、フィールドプレーヤー6人は、本当に大会に間に合うのか。なお、“まとめ役”としてJリーグに出場していない川口(GK)を選考した岡田は愚か。高校生じゃあるまいし、“まとめ役”でW杯に選ばれるなんて、プロの世界ではあり得ない。岡田に、指揮官としての求心力がない証拠だろう。
指揮官は、まず、中村俊輔が使えるか使えないかを判断し、はっきりさせるべきだ。ダメなら外しOKならば使う。ダメな場合、俊輔不在を危機のバネとして、日本代表を再生することだ。俊輔離脱の場合は、ピッチ上のリーダーとして本田を指名する。つまり、本田と心中する。
あとは、当該コラムで何度も書いたように、グループリーグで日本が勝ち点3を奪える相手は、カメルーン以外にないという認識の下、カメルーン戦に集中すること。フェアプレーなどくそ食らえ、玉砕戦法、喧嘩サッカーで戦うしかない。初戦までに、その覚悟を選手全員に徹底できるかどうか。岡田ジャパンができることは、それくらいしかない。
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